洒落怖
夜の堤防

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431 夜の堤防(1/3) sage 2009/09/09(水) 02:41:04 ID:roaYC44W0
千葉の外房の、とある漁港が好きで、度々夜釣りに出かけていた時の話。
その漁港は古くから「石持ち」などが投げ釣りで釣れるのだが、
防波堤が余りに小さく、少しシケルだけで非常に危険な状態になる。
そこで何年もかけて護岸工事が進み巨大なテトラや防波堤が出来ていた。

前回訪れた時は無かった新しい防波堤が伸びていて、
遠くから見ると先端部分の街灯の下に先客がいるようだ。
すぐ傍まで近づいてから「釣れますか?」と声を掛けようとして思いとどまった。
明らかに釣りの格好をしてクーラーボックスに腰をかけているのに、
竿を出さずに視線を落とし、ボーっと海を眺めていたのだ。

後ろ姿からすると50~60代以上の、やや高齢者のように見える。
付近にはペットボトルの飲料が一つと、手にはカップ酒のような物を持っている。
それ以外の物は特に見当たらないようだった。
防波堤の先端から5m以上手前に戻ると光がまったく射さなくなるので、
釣りの準備をするのは大変だが、何となく気味が悪かったので挨拶の必要が無い
暗い場所まで戻ってから、釣りを開始するために荷物を降ろし始めた。

打ち寄せる波の音が絶え間なく響いていたのだが、その合間にふと奇妙な声が聞こえて来る。
「あれ?」と思って先端部分のお年寄りに目を向けると、肩がビクビク小刻みに揺れていて、
まるで寒さに震えているようだ。
どうしたんだろうと思って少し様子を見ていると、ブツブツ何か言いながら、
手に持ったワンカップ酒を一気に飲み干し、その後ペットボトルの蓋を開けてから、
海にドボドボと流し始めた。

432 夜の堤防(2/3) sage 2009/09/09(水) 02:41:46 ID:roaYC44W0
その様子がまるで故人に飲み物を捧げているような雰囲気なので、
一旦手を止めてさらに凝視しながら耳をそばだてる。

老人:「一人では寂しかろうなぁ~。おじいちゃんがちょっと目を離した隙に
    こんな事になるなんて…。グスン、グスン…。」

『うわぁ~、なんだか事故で孫か誰かが亡くなっちゃったのかな?』と思いながら、
すっかり釣りの気分ではなくなったので、そのまま道具をまとめ始めると、
またその老人の声が聞こえて来る。

老人:「最近誰も来なかったんだけど、ようやく一人おあつらえ向きの者が来たから、
    今からそちらに送るからな。それで寂しさを紛らわせておくれ…。」

『………。おあつらえ向きの者が来た? 俺以外に人は居ないようだけど…。』

護岸工事が終わった直後の防波堤付近は地形が変化すると同時に生態系も乱れるため、
釣り糸を垂れてもあまり釣果は上がらない。
それを承知の上で敢えてこの場所を選んだのだが、案の定釣り人は誰も居なかった。
釣り人が来なくなったのいつからの事なんだろう?
もしかしたら、護岸工事が終わってから今日まで、誰も来ていなかったのだろうか?

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