洒落怖
パワースポット

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537 本当にあった怖い名無し sage 2010/09/30(木) 15:01:59 ID:ymsU6SjM0
(パワースポット・ラスト)
師匠は続ける。
「それにどうして元来た道を戻らなかったの?この先にさらに虫がいるかもしれないのに」
まったくそのとおりだった。虫に気づいた時点で探検は終了していた。恐怖でパニック寸前の状態だったのだ。
全員、我先に逃げ出したい気持ちだったのだ。それならば、元来た道を戻ったほうが安全だ。
それなのに、全員が出した結論は「前に進む」だった。
戻ってはいけないような空気に支配されていた。なぜ?
洞穴の前半を思い出そうとしても、前を照らす明り以外、すべて闇に包まれている。闇の向こうには、何があったのか?
重い沈黙の流れる中、師匠が話し始めた。
「虫は場所を選んで冬眠する。気温が一定でなるべく暖かい場所、湿度が高めの場所、
そして……餌のある場所。だけど、誰一人としてその”餌”を見なかった。否、正確には”見ないようにしていた”んだ」
餌、という言葉に違和感を感じたが、それを察した師匠は「形あるものだけが餌になるとは限らないよ」と付け加えながら、さらに話し続けた。
「おそらくそれは、見られたくないという明確な意思を持った存在……
たとえば力の弱い山の怪(ケ)、あるいは人間の霊魂、まあそんなところだろう。いずれにせよ、子供のうちに見なくて正解だったと思う」
それとも見てみたかった?と、意地悪な質問を投げてくる師匠に、俺は首を大きく横に振って答えた。
「でもね、そんなふうに人間が目をそむける場所であっても、虫たちにとっては大事な”パワースポット”だったんだろうね」
パワースポット、か……師匠はそう呟くと、何かに思いを巡らせているようだった。
が、手元に転がる数枚の1円玉に気づいた師匠はふう、とため息つき、
今日はもう話すことはないから寝るよ、と言うと、来た時と同じような格好でごろ寝するのだった。

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