洒落怖
自分自身

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ある日、リビングで寛いでいるとインターホンが鳴りました。妻に先立たれ子供もいないこの家に、来訪者を迎えるのは私しかいません。
玄関のドアを開けると、みすぼらしい格好の男が一人立っていました。うす汚れたコートを羽織り、形の崩れた帽子を深く被っており顔が見えません。
私「どちらさん?」
男「…今日で終わる」
私「は?なんです?」
男「長かった。でも今日でそれも終わりだ」
男の言う意味が全くわかりませんでした。おそらく訪ねる家を間違えているのでしょう。
私「あなたは家を間違えてませんか?ここは○○通り…」
男「○○通り1153番。間違うはずがない」
私「え、では私に何か用なんですか?」
これは気でも狂ったか、もしくは乞食の新手の物乞いだろうと思い、
私「お腹が減ってるんですか?」
男「腹?減る訳ない」
私「じゃあどこの病院から抜け出して来たのですか?」
男「…」

私「お名前と病院名を教えて下さい。なんなら私が病院まで送って差し上げますよ」
男「…」
私「どうしたんですか?なにか言ったらどうですか?」
男は俯いて黙り込んでしまいました。私はほうっておこうと思い、玄関のドアを閉めようとしました。すると、男の体が震え出したのです
私「どうされました?やっぱり救急車を呼びま…」
男「ふふっ、はは、はっはっはっ!」
男は突然大声で笑い出したのです。私は驚きながらも、これは病気だと思い、警察を呼ぶため電話のあるリビングに戻ろうとしたのです。

435 本当にあった怖い名無し sage 2010/01/20(水) 19:18:15 ID:mlhRNureO
すると、その男はいきなり私の腕を掴みました。その力は強く、私は男の方を向かされました。
男「そうさ、抜け出してきたんだよ。でも病院なんかじゃないぞ。ここからだ!」
と叫ぶと男は大きな動作で私の額を指差したのです。その時に男が羽織っていたコートと帽子が落ちました。そこに現れたのは他ならぬ「私」自身だったのです。私は訳がわからなくなりました。その時、私の頭の中でピキッと卵の殻が割れるような音がしました。
男「見ろ!俺を見ろ!お前の本当の姿をした俺を見ろ!」
私の姿をしたその男は、私が以前に着ていたのと全く同じジーンズとセーターを着ていました。
私「お前は、なんなんだ!?一体どういう事だ!」
私は酷く混乱しました。その男の服は私がかつて着ていたのと同じでしたが、全体的に薄汚れており、何よりセーターのあちこちに赤黒い染みがべったりと付着していました。再び卵の殻が割れるような音…
男「世の中の人々はあの事を忘れとしまった。お前もな。だが俺は忘れない」
私「な、何だね、あの事とは」
それを聞いた男はおどけて天を仰ぐポーズをして言いました。
男「そうだよな。お前があの事を覚えてる訳がないよな。覚えていたら俺なんか生まれなかったんだから」
私「あんた、さっきから何言っているんだ!」
男「聞きたいか?では教えてやる。俺はお前の妻を殺害した犯人だ」
私「…!!」
男「もうひとつ教えてやろう。こっちの方が大事だ。いいか、よく聞け!俺はお前だ。お前のもう一人の人格だ。今日はお前に殺される前に、お前を殺しに来た。さあ、終わりにしよう」
私の頭の中でグシャという音がしました。その瞬間、男は私の頭の中に入ってきました。そして私は全てを思い出したのです。

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