洒落怖
喜一

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本当に一人でも帰りたかったが、兄を一人で行かせるわけにもいかず、俺は半泣きになりながらも、兄と喜一の後を追った。

726 本当にあった怖い名無し sage New! 2009/08/16(日) 06:54:23 ID:11KLgdvXO

道を進んだ先に、上に有刺鉄線の付いたフェンスと開きっぱなしの南京錠のついた金網のドアがあった。
どうやら喜一はこの先に進んだらしい。
兄が先行して、俺はそれについて行った。
坂を上がると開けた土地に出た。

本当に驚いた。
そこには少し大きい古い木造の建物があった。

それを見つけた時点で、もう、どうしようもなかった。
怖くて、兄の手を掴んで必死でもと来た道へと駆け出そうと振り返った。
その時、建物のある背後から、怒鳴り声が聞こえた。

「あぁ゛殺しっちめ●△*」

殺し~の部分は確かに聞き取れたので覚えている。
振り返ると喜一が薄暗い影の中から追いかけてきていた。

俺達は、無我夢中で来た道を走った。
喜一は年寄りだったから早く走れなかったのだろう。
声と気配はすぐに消えた。
さっきのフェンスの所を通り過ぎた時、兄が立ち止まってドアを閉め、南京錠で鍵をした。
喜一がそこから出るには、かなり回りこんでフェンスの途切れるところまで行くか、鍵を持っていればそれを使って、金網の隙間から錠を開けなければならない。
いずれにせよ時間稼ぎにはなっただろう。
俺達はそのまま、山を降り、喜一の家の庭を突っ切って来た道を戻った。
もう、辺りは真っ暗だったが、途中で隠居さんの家に寄り、そこで電話を借りて足を捻ったということにして両親に車で迎えに来てもらった。
両親は帰りが遅くなった事について特に何も言わなかったが、俺達も喜一のところに行ったことと山羊のことは黙っていようと口裏を合わせていた。
ただ、あの建物のことはどうしても気になっていた。

727 本当にあった怖い名無し sage New! 2009/08/16(日) 06:55:48 ID:11KLgdvXO

次の日、喜一が死んでいるのが見つかった。

酔って道路で寝ていた所を早朝に石切場に向かっていた大型トラックに轢かれたということだった。
あんな事のあった次の日に喜一が死んだという事で、俺達は怖くなった。
そして、事の顛末をばあちゃんに話した。
叱られると思ったが、ばあちゃんは悲しそうな顔をして色々教えてくれた。

・喜一が山羊を喰うのは昔からで、金がなくなると一頭ずつ喰っていた。
・昔は沢山いたが、前にいた二頭がもう最後だった。その二頭には出て行った娘二人の名前をつけて可愛がっていた。
・あの建物は、昔の校舎。(分校)母の10才上の姉の代に廃校となったが、取り壊す理由も無く、そのままになっていた。喜一はその土地と建物の管理者だった。
・分校が廃校になって、そこを喜一が出入りするようになってから彼がおかしくなった。(昔は温厚で誠実な人柄だったらしい。)

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