サイコ
ドラム缶風呂

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「まあいいや、おい」

甲高い声の男は近くにいた男たちに声を掛けて、何やら準備し始めた。
そいつらはゴロゴロ何かを転がして、ゴリラの近くにそれを置いた。
ドラム缶だ。

「まさかこいつらゴリラをコンクリート詰めにでもするのか」とか俺はお気楽なことを考えていた。
コンクリート詰めで済むのなら良かったんだよ、ホントに。

男たちはゴリラをドラム缶に四人がかりで入れていた。
ゴリラは全く抵抗をしないで、すんなりドラム缶に入れられてた。
アイツがやったことはうーうー唸るだけだった。

「いいこと教えてやるよ、お前らが捕まったのはコイツのせいだ。デリヘリ頼んだんだよ。笑えるだろ? 自分から俺たちに場所を知らせてくれたんだわ」

俺はゴリラの厚かましさに呆れると同時に、無用心さに腹が立った。
「逃げている最中に何てことしやがるんだ」と。

「あんな端金はもういい。コイツには落とし前をつけてもらう。俺たちをおちょくりやがったってことが大問題なんだ。俺たちはなめられたら終わりなんだよ。なあ、おい。お前がどこの誰かなんてことはどうでもいいんだ。
コイツと一緒に俺たちをコケにしたのかどうか、それがききてえんだよ。お前がウチの事務所から金をパクってないってどうやって証明するんだ? これからお前はコイツとしばらくいてもらう。
その後にもう一度だけ質問する。いいか? どれくらい掛かるかわからねえけど、しっかり考えろよ? まあ個人的には同情するぜ」

甲高い声の男は一気にそうまくし立てると、傍らの男に声を掛けてそこから出て行った。
俺はこれから始まることへの不安から、震えちまった。
もう心の底からブルっちまった。

無理矢理椅子に座らされて、例のビニールヒモでグルグル巻きにされた。
そのまま二人の男に椅子ごと抱え上げられて、ゴリラが入っているドラム缶の前に置かれた。
ゴリラの顔の前から50センチくらいしか離れていなかった。
こんな不幸なお見合いはないだろ?

ゴリラはうーうー唸ってた。

俺も抵抗する気は起きなかった。
ただ早く開放されることだけを祈ってたよ。

五人の男たちが俺たちの周りで作業をしてた。
いかにもな風貌の男たちは嫌々動いているように見えたのは気のせいじゃないと思う。

ドラム缶の中に太いホースが突っ込まれた。
そうだな、ちょうどコーラの500mlの缶ぐらいの太さだと思う。
間抜けにも俺は「ああやっぱりコンクリートか」ってビビッてた。

そのホースは変な容器に繋がってた。
服とか小物を入れるでっかいプラスチック製の容器あるだろ? 
あんな感じの容器が頭についてる俺たちの身長くらいの足の長いキャスターに繋がってたんだわ。

おい何だよ、何すんだよ、ってつま先からつむじまでブルってた。

作業が終わったのか、最終チェックみたいなことをした男たちは俺に目線を向けた。
そして意外なことを言った。

「おい、きつかったら目を閉じてろよ。頑張れ」

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