宗教
神託

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ばくばくと跳ねるような心臓の音が、列車のがたごとに負けず耳に響いてくる。
ものすごい動揺状態におかれている自分。
回りの人が俺を不審者でも見るようにちら見した。
俺は、彼らにいますぐ後ろの車両に言いたかったが。
口は開いても音になりきらない呻きがこぼれるばかりだった。

806 本当にあった怖い名無し sage New! 2008/01/06(日) 09:34:27 ID:HdsLqKzQ0
景色の中のプラットフォームが拡大されるに従って。
俺は一番みたくないものをみた。
そのプラットフォームの手前に佇む一人の人間。
減速が少し急に訪れて、俺は前に少しつんのめって。
自分の意思によらず数歩よろめくようにしてあるかさされた。

結局、夢が現実に起こる寸前、
俺にできたのは子供の目を両手で塞ぐことだけだった。
つんのめったから手が届くようになった。
母親は、当然俺に対して罵詈雑言浴びせかけた。
まるで変質者だからな。
けど、事故が起こるや、俺の意図に気づいて。
俺が目隠しをし、母親が手をひいて、列車の外に出て、駅の改札口へと三人で向かった。

807 本当にあった怖い名無し sage New! 2008/01/06(日) 09:36:16 ID:HdsLqKzQ0
昔の人はこういうのを神託といったんだろうか。
自分の身に起こると確かに同意する。
その時になってみればそれを変えるのが困難に感じるほど、人間の尊厳-自由-が奪われる。
その宿命を企図した者の前では、人間の命なんて、たかだか電車に突っ込ませるぐらいの、
安っぽっちいものでしかないってことを叩き込まれた。
もちろん反抗もまったく無意味だってこともな。

あれは、悲劇を事前に知らされてた人間が、どのように足掻いて苦しむか。
それをショーとして観察するやつが描いた劇だったんだ。
まるでクイズ問題だったよ。
あれ(電車から降りる)はだめ、これ(後部列車に移動する)はだめ、最悪の結果から遠のくたった一つのチャンス(せめて子供にみせない)を探す。
唾棄すべきサディズムに満ち溢れた、加虐の背徳に満ち満ちた、クソッタレなショーだったろうな。
さぞ楽しんだこったろう。

以降、俺は無心論者だったが、有神論者にこれ以降鞍替えした。
ただし、カミサマなんてありがたいとはこれっぽっちも思わん。
そいつは、きっと既存の宗教のカミサマですらないんだろう。
宗教上の対立やら、それに纏わる悲劇なんてのは古代から現代に至るまで連綿と続いてる。
隣国じゃ2000年にはいってても虐殺を二度行ってる。
一方でヒューマニズムを歌い、ある所で非戦を歌い、ある所で精神の気高さを謳い。
しかし全体としては生産的活動が行えないどころか住処(地球)も冒す人間。
ショーの主役としてこれほどユーモラスでみじめな存在はないんだろうな。
カミサマのクズぶりには及びもつかないが。

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