人形にまつわる話
目の合わない人形

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400 藤 2007/08/29(水) 23:38:26 ID:tbgXgw8NO
それは、ちょっと煤けていたけど、立派な女の子の人形だった。フランス人形か何かだろうか、青い瞳を伏せている。
「ああ、それか」
ヤナギが人形を持ち上げる。
「これは特に不気味なもんじゃないんだけど、変わった作りがしてあってさ。」
ココ、と、ヤナギが人形の瞳をつつく。
「なんか、角度や色が細かく計算してあって、絶対に目が合わないようになってんだよ。」
なるほど、確かに目が合う人形は山ほどある、というかむしろ人形とは目は合うものだが、絶対目が合わない人形とはめずらしい。僕も人形をヤナギから受けとり、目を見てみた。
確かに、微妙に目の焦点がズレて見える。
「へぇ。こいつは面白いな」
僕は人形を色んな位置に移動させて、目を合わせようと試みた。けど、やはり目が合わない。どこか違う方を見ている。

そのとき、気付いた。
どんなに移動させようと、角度を変えようと、目の合わない人形。その人形が、僕から目をそらし、見ている一点。
それは、 ナナシだった。
「え?え?」
僕は場所を変え角度を変え、立ち位置を変え、人形を動かした。しかし、どんなにそれらを変えても、目の合わない人形はナナシの方を見ていた。
どの位置に立っても、ナナシがいる方に目線が向いている。じっと、睨みつけるように。
おかしい。
オカシイオカシイオカシイ。
僕はパニックになって人形を揺さぶっていた。怖くて怖くて仕方なかった。どうしてナナシの方を見るのか。どうして。
そのとき。

401 藤 2007/08/29(水) 23:39:39 ID:tbgXgw8NO
「ホラ、いい加減にしろ。」
ナナシが僕の手から人形を奪うと、元の場所に置いた。僕は汗だくになっていた。
「悪いなヤナギ、こいつ夢中になると我を忘れるから。でも面白いな、
親父さんのコレクション」
ナナシがヤナギに詫びを入れ、ほかに話を振る。ヤナギも特に何か疑う様子もなく、話をしている。それでも僕は、やっぱり人形を見ていた。
人形は、やっぱりナナシを睨みつけていた。

しばらくお喋りをして、僕とナナシはヤナギの家を後にした。帰り道、僕はナナシに思い切って言った。
「ナナシ、あの人形…」
「ずっと俺のほう見てただろ?」
やっぱりナナシはわかっていた。ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら、僕を見る。
「なかなかお前も、だいぶカンがよくなったじゃねぇか」
俺の教育の賜物だ、などとふざけたことを抜かすナナシに腹を立てつつ、半ば呆れて僕は言った。
「お前、よく怖くないよな。」
するとナナシは、ハッ、と鼻で笑うと、
「俺はお前の後ろに突っ立てた、手足がやたら折れ曲がった女のが怖かったぜ?」
ベキベキベキって、聞こえてきそうでさ。
と、言った。
僕は急速に体が冷えてくのを感じた。
「ん?知らなかった?」
ナナシはケラケラ笑って、
「『知らぬが仏』って、ホント名言だよな。」
と言った。
どこかで聞いたセリフだと頭の隅で感じながら、僕は走ってその場を去った。

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