田舎・地方の習慣
餌やり

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そんなクロを今までに見た事が無かった。
鳴きもせず喉を鳴らす事もせず只ひたすらに彼は俺の目を見つめたのだ。

彼が伝えようとした意味はそんなに難しい事じゃなかった。
受け入れたくない類の、けどいつかはやって来る事だった。

大人になって初めて泣いた。

124 本当にあった怖い名無し sage 2009/02/02(月) 23:34:03 ID:pNjf/Sk00
ゴム手袋をはずして目頭を押さえても涙はどんどん出てきて
嗚咽みたいな声としゃっくりが止まらなかった。
滲んだ視界にクロがぼやけて映って、それでもまだちゃんと
俺に何かを伝えようとしてくれていた。

「わがっだ、わがっだがら」
俺はぐしぐし言いながらクロにそう言った。
胸が締め付けられて息が出来ない。
置物みたいに動かないクロの顔は凛としているのにも関わらず
何故だかすごく無理をしているみたいで、俺はそれがたまらなく悲しい事のように感じた。

ゴミ捨て場で泣いている俺を上司が見つけて
それでも涙が止まらない俺は「すいません、すいません」としか言えなかった。
上司に付き添われながら戻る時、ゴミ捨て場のほうを見るとクロはもうそこには居なかった。

会社に電話が掛かってきて「祖母が死んだ」という知らせを聞かされたのはすぐ後のことだった。

今でも俺んちは暖かい日に猫が来てひなたぼっこをしたり、母に餌をねだったりしている。
俺はまだ見た事がないのだけれど、クロが時折背筋を伸ばし縁側を見るのだそうだ。
そうした時我が家では、座布団とお茶とお菓子を縁側に置くようにしている。

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