田舎・地方の習慣
視線の種類

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しかしここまで来て「やっぱ怖いから帰ろう」なんてへたれたことは
口が裂けても言えない。
覚悟を決めた小学生4人組は、虚勢を張りつつも小道をずんずん進んでいった。

584 3/6 sage New! 2008/05/17(土) 18:05:30 ID:aM51ze7e0
そして遂に墓場に到着。
その日はよく晴れて、来る途中は満天の星が瞬いていたのが
ここでは木々に遮られて一つも見えない。まさに真っ暗闇だ。
風もあまり届かず、脂汗と冷や汗があいまって何とも気持ちが悪い。
俺は全力で帰りたかった。

しばらく4人無言でいたが、なけなしの勇気を振り絞り
とりあえず墓場を一周してみることにした。
墓場は結構広く、しかも山の斜面にあるので傾斜がきつく歩きにくい。
しかも土葬時代の名残なのか、
墓石がなく土盛りの後ろに卒塔婆を立てただけの最強に気味悪い墓も結構ある。
あの土を掻き分けてぼろぼろに腐った腕がのぞいたらどうしよう、とかいう想像が
俺の頭の中を駆け巡る。
怖い。怖い。怖い。

しかし、想像に反して墓場は沈黙を保ったままだった。
10分ほどの恐怖の行軍を終えて墓場の入口に戻ってきた俺たちは、
「たいしたことないぜ」「拍子抜けだな」等と
心にもない虚勢を張りながら笑い合った。

「肝試しも終わったし、もう帰ろうぜ」
友達の言葉に全員が頷き、墓場に背を向けて歩き出した、
そのときだった。

585 4/6 sage New! 2008/05/17(土) 18:06:59 ID:aM51ze7e0
不意に背筋が粟立った。
強烈なおぞけが、背骨のあたりから手足の先へとゆっくり広がってくる。
指先がぴりぴり痺れる。
吹き出た汗がぬめる。膝が震えだす。俺は懐中電灯を取り落としそうになった。

なにかが視ている。

何故かわからないがそう確信した。
叫びだしそうになったが、喉が干上がって声が出ない。
振り返ったいとこが「どうしたの?」と俺に声をかける。何も感じないのだろうか。

(何でもない)
声が出ない代わりに何とか首を振って応え、俺はぎくしゃくと3人の後に続いた。
視線は背中に張り付いたままだ。
お願いです。ごめんなさい。見逃してください。助けて、助けて、助けて。
正体のわからない誰かに心の中で謝り続けながら、俺は必死で歩きつづけた。
視線がやっと外れたのを感じたのは、小道の出口を曲がった時だった。
がくりと力が抜け、俺は滝のように汗を流しながらぜいぜいと喘いだ。
いとこや友達は最後まで何も感じなかったようで、不思議そうに俺を見ていた。

家に帰り着くとちょうど親父が風呂に入っていたので、
着替えもタオルも持たないまま風呂場に直行して一緒に入った。
親父は一緒に風呂に入るのは久々だと暢気に喜んでいたが、
その夜はとにかく一人になりたくなかったのだ。
眠る時も自室にいとこを呼んで寝た。

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