ストーカー・きちがいの話
笑い女

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次の日から、大村の行動がおかしくなりはじめた。
まず、やたらとウォークマンで音楽を聴くようになった。
別にそれ自体はおかしなことではないけど、出勤途中に顔を合わせてこっちから声をかけても、
軽く手を上げるだけでイヤフォンを外そうとしない。
近寄ってみると、物凄い大音量で聴いてるみたいで、やたらと音漏れしてた。
ちょっと感じ悪いなと思ったけど、その時は別に何も言わないでおいた。
それが、昼休みにまで音楽を聴くようになった。
昼飯に誘おうとしても、大村はそそくさとイヤフォンをつけて一人でどこかに行ってしまう。
挙げ句、仕事中にまでイヤフォンを外さなくなった。
さすがにこれはおかしいと思っていたら、大村よりもさらに上の先輩が大村を怒鳴りつけた。
それからは、仕事中に音楽を聴くようなことはなくなったけど、かわりに独り言を言うようになった。
しかも、「うるさい」とか「ああああああ」とか、大声で言う。周りが注意してもやめようとしない。
みんな、正直気味悪がってた。
見るに見かねて、退勤してから大村を呼び出して話をすることにした。

259 6/9 sage New! 2008/12/27(土) 22:48:14 ID:PszTJAk/0
大村は最初俺と話すのを渋ったけど、賑やかなところでだったら話すって言い出したから、ファミレスに連れ出した。
ファミレスはそこそこの混み具合で、高校生っぽいのが大声ではしゃいだりしてた。
それから、俺が最近のお前はおかしいって切り出すと、大村は自分でもわかってるって言った上で独りでに話し始めた。
なかなか要領を得ない話だったんだけど、大雑把にまとめるとこんな感じ↓

例のスーパーでの一件以降、ふとした拍子に笑い女の「いひゃっいひゃっいひゃっ」ていう笑い声が聞こえるようになった。
初めはかすかに聞こえるという程度で、空耳かとも思ってたんだけど、
丁度、背後から段々近づいてきてるような感じで、日を追う毎に笑い声は大きくなってきてる。
周りで何かの音(音楽とか人の声とか)がしているような時には、笑い声は聞こえてこないのだけれど、
ふと無音状態になると、「いひゃっいひゃっいひゃっ」が聞こえてくる。
今では、少しくらい辺りが騒がしくても、それ以上のボリュームで笑い声が聞こえてくることもある。
何より辛いのは夜中で、寝ようと思って電気を消すと、部屋中に鳴り響くような勢いで笑い声が襲ってくるので、
とてもじゃないけど、寝つくことなんてできない。

まとめるとさっぱりしてるけど、実際には話してる途中でいきなり大声を出したり、
「あいつが、あいつが」って泣きそうな声で繰り返したりするから、内容を掴むにはかなり時間がかかった。
しまいには、「あの女に呪われた」とか「あいつ、幽霊なんじゃないか」とか言い出す始末。

260 7/9 sage New! 2008/12/27(土) 22:50:27 ID:PszTJAk/0
俺が何よりもまず思ったのは、大村は変な妄想にとりつかれてるってこと。
笑い女は幽霊なんかではないし、ただのちょっと変わった女でしかない。
その証拠に、あの日以降も俺は笑い女がスーパーで買い物をしてるとこを何度も見てる。実在する人間だ。
笑い声が独特で気味が悪いから耳に残ったっていうのと、大村なりの罪悪感みたいなものが、妄想の原因だと思った。
大体、スーパーに出る幽霊っていうのも、何だか間抜けだと思う。
そう言って聞かせても、大村はまるでこっちの言うことを聞こうとしない。
「呪い」とか「幽霊」とか繰り返すばっかり。
俺は段々イライラしてきて、「そんなに言うなら、一緒にスーパーに行こう」って切り出した。
大村の言ってることの馬鹿馬鹿しさにも腹が立っていたし、相手が現に実在してるただの女だって認識すれば、
変な妄想もなくなるんじゃないかと思ったから。
勿論、大村は猛烈に嫌がったけれど、俺は大村を無理矢理引き摺るようにして、
レストランから出て、電車に乗って、例のスーパーに向かった。
電車の中でも大村はブツブツ呟いて、びびってた。

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