師匠シリーズ
ドッペルゲンガー

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76 ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2006/10/15(日) 21:41:55 ID:lY9MF+tv0
「おまえのはどうだろうな。白昼夢でも見たんじゃないのか」
そうであってほしい。
あんなものにうろちょろされたら、心臓に悪すぎる。
「しかし気になるのは、その女友達が見たというおまえだ。おまえとドッペルゲンガーの二人を見たような感じでもない。話しぶりからするとおまえと一緒に歩いていたのは女だな。本当に心あたりがないのか」
頷く。
「じゃあ、ドッペルガンガーがだれか女と歩いていたのか。おまえの知らないところで」
「こんど聞いておきます。角南さんがどこで俺を見たのか」
俺は注文したオレンジジュースを飲みながらそう言った。そう言いながら、京介さんの様子がいつもと違うのを訝しく思っていた。
あの、飄々とした感じがない。
逼迫感とでもいうのか、声がうわずるような気配さえある。
ドッペルゲンガーだな、と言ったその言葉からしてそうだった。
「どうしたんですか」
とうとう口にした。
京介さんは「うん?」と言って目を少し伏せた。
そして溜息をついて、「らしくないな」と話し始めた。

77 ドッペルゲンガー  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2006/10/15(日) 21:44:31 ID:lY9MF+tv0
京介さんがもう一人の自分に気づいたのは小学生のときだった。
はじめは、ふとした拍子に視線の端に映る人間の顔を見てオバケだと思った
という。
視界のいちばん隅。そこを意識して見ようとしても見えない。なにかいる、と思ったのはあるいはもっと昔からだったかも知れない。
でも視線の端の白っぽいそれが人の顔だとわかり、オバケだと思ったすぐあと、「あ、自分の顔だ」と気づいてしまった。
それは無表情だった。
立体感もなかった。
そこにいるような存在感もなかった。顔をそちらに向けると、自然とそれも視線に合わせて移動した。まるで逃げるように。
いつもいるわけではなかった。
けれど疲れたときや、なにか不安を抱えているときにはよく見えた。
怖くはなかった。
中学生のとき、ドッペルゲンガーという名前を知った。
その本には、ドッペルゲンガーを見た人は死ぬと書いてあった。
そんなのは嘘っぱちだと思った。
そのころには、それは顔だけではなかった。トルソーのように上半身まで見えた。ただその日着ている自分の服と同じではなかったように思う。どうしてそんなものが見えるのか、不思議に思ったけれどだれかに話そうとは思わなかった。自分と、自分だけの秘密。
高校生のとき、自己像幻視という病気を知った。精神の病気らしい。
嘘っぱちだとは思わなかった。ドッペルゲンガーにしても、自己像幻視にしても、結局自分にしか見えないなら同じことだ。そういう病気だとしても、同じことなのだった。

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