師匠シリーズ
人形

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209 人形  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/02/12(火) 00:13:49 ID:FukvotX90
人形にまつわる話をしよう。

大学2回生の春だった。
当時出入りしていた地元のオカルト系フォーラムの常連に、みかっちさんという女性がいた。楽しいというか騒がしい人で、オフ会ではいつも中心になってはしゃいでいたのであるが、その彼女がある時、こう言うのである。
「今さ、友だちとグループ展やってるんだけど見に来ない?」
大学の先輩でもある彼女は(キャンパスで会ったことはほとんどないが)美術コースだということで絵を描くのは知っていたが、まだ作品を見せてもらったことはない。
「いいですねえ」
と言いながら、ふと周囲のざわめきが気になった。居酒屋オフ会の真っ只中に、どうして俺だけを誘ってきたのか。確かによくオフでも会うが、それほど彼女自身と親しいわけでもない。フォーラムの常連グループの末席に加えてもらっているので、自然に会う機会が増えるという程度だ。
なにか裏があるに違いないと、嗅ぎつける。
追求するとあっさりゲロった。
「gekoちゃんの彼氏を連れてきて」と言うのだ。
gekoちゃんとはその常連グループの中でも大ボス的存在であり、その異様な勘の良さで一目置かれている女性だった。その彼氏というのは俺のオカルト道の師匠でもある変人で、そのフォーラムには「レベルが違う」とばかりに鼻で笑うのみで参加をしたことはなかった。もっとも彼はパソコンなど持っていなかったのであるが。
その師匠を連れてきてとは一体どういう魂胆なのか。
「いやあ、そのグループ展さあ、5日間の契約で場所借りてて今日で3日目だったんだけど……なんか変なんだよね」

210 人形  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/02/12(火) 00:15:41 ID:FukvotX90
聞くところによると、絵画作品を並べているギャラリーで誰もいないはずの場所から誰かのうめき声が聞こえたり、見物客の気分が急に悪くなったりするのだそうだ。
「昨日なんてさ、終わって片付けして掃除してたらさ、床に長くて黒い髪の毛がやたら落ちてんの。お客さんっていっても、わたしの友だちとかばっかだし、たいていみんな髪染めてんのよ。先生とかオッサン連中はそんな髪長くないしね。気味悪くてさあ」
みかっちさんは演技過剰な怖がり方で、肩を抱えてみせた。
「こういう時頼りになるgekoちゃん、この間からなんか実家に帰ってていないし。キョースケは東京に出て行っちゃったし」
肘をついてブツブツと言う。
「というワケで、噂のgekoちゃんの彼氏しかいないワケよ」
みかっちさんは師匠と直接会ったことはないようだが、やはり噂は漏れ聞いているみたいだ。どんな噂かはさだかではないが。
「とにかくコレ、案内状。明日来てよね。私、明日は朝から昼まで当番だから、昼前に来て」
ずいぶん強引だ。「明日は平日なんですけど」と言うと、めったに講義出ないんでしょと小突かれた。

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