厳選怖い話
犬の散歩をするおじさん

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このことは、怖がりの妹には内緒にしておこうと思いました。
でも、黙っているのは落ち着かない。
それで翌日、学校にいくとすぐ、友達に話をしました。
女友達は私が満足する以上の反応で怖がってくれたのですが男友達がどうしても信じてくれません。

「嘘だと思うならうちに来てみれば?勇気があるならね。」
私のこの言葉に反応した三人の男子が、私の家に来る事になりました。
とはいえ、そんな夜に男子を家に入れるのを母が許すはずがありません。
うちの庭にはプレハブの物置小屋がありました。

ちょっと狭いけど、そこにこっそりと招き入れることにしました。
懐中電灯と声を録音するためのラジカセを持って、夜10時半に集合ということで。

集まった男子達は緊張のためか、いつもよりしゃべりまくっていました。
いくら私が「しーっ!」と睨み付けても、「あーごめんごめん。・・・それでさ~」と、とどまるところ知らず。

私はこれから起こることより、母に見つかって怒られることの方を恐怖していました。
この3人を招き入れたことを後悔しはじめたそのときです。

男子の笑う声の合間合間に、かすかに、

「チャラッ・・・・・・・」。

「来たっ!」という私の言葉で、その場の空気がいっぺんに固まり、みんな一斉に耳を澄ましました。
最初のうちは、「聞こえないぞ?え?」と言い交わしていたのもつかの間、「それ」が、だれの耳にも聞こえる距離までやってくるとまるでいきなりビデオの静止ボタンを押したように、三人の動きが止まりました。

「それ」がやってきたら懐中電灯を消す、ということも、ラジカセの録音ボタンを押す、ということも、というより、思考自体を喪失しているようでした。
私はそっと、録音ボタンを押しました。

唾を飲み込む音すら聞こえてきそうな静寂の中、ゆっくりと、「それ」は近づいてくる。
やがて、鎖の音と共に、低い、底響きのするような声が聞こえてきました。
うたっているのです。
時代劇の結婚式のシーンで見たことのある、「た~か~さ~ご~や~~~」みたいな感じのものをうたっているのです。

身動きを少しでもしたら・・・息を少しでも吸ったら・・・
正気を失ってしまいそうな恐怖でした。

「ガタッ!」と、私達の後ろで、何かが床に落ちる音がしました。
その瞬間、

「うぎゃあぁぁああぁっぅ!!!」

3人のうち、YとMの二人が、絶叫をあげながら物置のドアを蹴破り、信じられないスピードで逃げていきました。
そのとき、私の精神も危なかったのかもしれません。
腰が抜けている私は残ったA君の手を必死に掴み、噛み付いていたのですから。
A君は失神していました。

開けっ放しのドアから、なんとなく生臭い空気が流れてきます。
ドアがあろうがなかろうが「それ」の通行にはまったく支障がないだろうことは想像がつきます。

もう、すぐそばまでやって来ているのです。
「見たくないっ!」
動くことのできない私は、ほんの少しでも抵抗をしようとドアから顔をそらし、A君の手に噛み付きながら放り出された懐中電灯の明かりの輪をみつめて、必死に耐えていました。

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