厳選怖い話
カン、カン

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真っ暗な路地。街灯と月明かりだけが頼りだった。
母はどこに行ったんだと妹に聞くと、驚いたことにすぐ近くにいるという。
嫌な予感がじわじわとしていた。

家から100mほど進んだところ、路地を照らす街灯の下に母はいた。
母は、電柱の周りをぐるぐる回っていた。
散歩のようにゆったりと歩くようなペースではなく、かなり速いはや歩き。
あるいは、駆け足のようなものすごいスピードで、ぐるぐるぐるぐる回っていた。
昼間に見せてくれていたような、朗らかで優しげな表情は今やどこにもなく、
遠目に見ても、般若のような鬼の形相にしか見えなかった。
あまりの恐ろしさに呆然としていると、妹は「もう帰ろう」と促すと同時に、
「たぶん、あと10分くらい続くから、あれ」と付け加えた。

ものすごく怖かった。母の異常な姿を目の当たりにして、私はようやく事の重大さに気付き始めた。
「あなたも、あなた達家族もお終いね」
今頃になって、あの女のおぞましい言葉が、頭の中で繰り返されました。

476 カン、カンその後 5 :2010/01/04(月) 17:34:26 ID:+c8UOsBv0
妹よりも一足早く家に帰ってきた私は、居間の電気をつけようと壁を探りました。
大体この辺にスイッチがあったのに…そう思いながら手探りしていると、
指先に角ばったプラスチックの感触が伝わった。
それとほぼ同時に、真っ暗な空間で、「カン、カン」という音が響き渡った。
あっ、と思った時にはすでに遅く、私は壁のスイッチを押してしまっていました。
白い光で照らし出される居間。強い光に目が慣れず、私は反射的に目を細めた。
テーブルの上には、白い着物を着た女が座っていた。
こちら側に背を向けているので、顔までは分からなかった。
現実感がまるでなく、冷静な思考が出来ませんでした。
テーブルの上に女が正座しているだけでも異常なのに、
点灯したばかりの室内灯に明順応しきれていない私の目には、居間の空間全体が奇妙なものに映りました。
嫌な汗がどっと吹き出ているのを、体に張り付く衣服で感じていました。

何分、いや何秒そうしていたか分かりませんが、
私の指が再びパチンとスイッチを押すと、居間は真っ暗な闇に飲まれ、何も見えなくなりました。
そしてちょうどその時、玄関からガチャリとドアの開く音が。…妹か。
しかし私の視線は、再び闇に包まれた居間のほうに釘付けで、
テーブルの上には、まだあの女がいるような気がしていました。
その一方で、玄関ではガサ、ガサ、という靴を脱ぐような音に続いて、
木造の床に体重が掛かるときに鳴る、ギッ、ギッ、という独特の軋み音が。
私は、廊下のほうを振り向くことが出来ませんでした。
妹に決まっているはずなのに、そっちのほうを見れない。
いや、何となく分かっていた。
気配というか、勘というか、あやふやなものだったけど、後ろから近付いているのはおそらく妹ではなかった。
形容し難いほどおぞましい感覚が、ギッ、ギッ、という軋み音とともに強くなっていく気がした。
そして、真っ暗な居間の真ん中、テーブルが置いてある辺りで、「カン、カン」という金属音が鳴った。
意識が遠のく寸前、私のすぐ後ろにいた人物の手に、ガッと肩を掴まれたのを確かに感じた。

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