洒落怖
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密閉された真夜中の車内は、暗く重く、いやな汗が背中から吹き出し、効かせすぎた冷房に冷やされて寒気さえ感じていました。
ミラー越しにはさきほどと同じ笑った目元が張り付いたままでした。

突然、会話がふっと途切れました。この奇妙な会話から解放されたのか?と思った瞬間、
ドンッ!!という衝撃音が車内に響きました。
ビクッ!と身体を硬直させながら見ると、運転手が左足を、まるで何かを踏み殺すかの勢いで床に打ち付けているのでした。
それも一回ではなく何度も何度も。ドン!ドン!ドン!と。

「ああああああああああああああああ。あああああああ!!!」

さらにはこんな唸り声まで上げ始めました。
運転手は足を、今度は貧乏ゆすりのようにゆらしているのですが、力いっぱい足を上下しているので車がグラグラ揺れるほどでした。
なぜ?前の車が遅かったのが気に障ったんだろうか?それとも僕が何か怒らせることを言ったんだろうか!?ていうかこの人ちょっとおかしいんじゃないか!?

僕は完全に混乱してうろたえていると、

「お客さぁん、○○通りに住んでるってことはもしかして○大の生徒さん?」

・・・と、また同じことを僕に聞いてきたのです。
グラグラと貧乏ゆすりをしながら。目元にはあの笑顔を張り付けたまま。
この時僕は、もはや違和感や不気味さなどではなく、はっきりとした恐怖心を抱いていました。

自分の命を、明らかに異常な男の操縦に預けている。
これを意識した時の恐怖は今でもはっきりと思い出せます。
しかも運転は明らかに荒くなっており、曲がるたびに右へ左へ体がふられ、前を走る車にはクラクションを鳴らして強引に前に割り込んでいくのです。
京都のタクシーが運転が荒いのは知っていましたが、乗客に死の恐怖を感じさせるほどではありません。
このときは、本当に死ぬかもしれないと思いました。

おろしてくれ!と叫びたかったですが、情けないことに、人間本当に怖いと声が出てこなくなるようです。
なにより、運転手に下手な刺激を与えたくなかったので、僕はただただじっと石像のように固まっていたのでした。

・・・そして、恐ろしいことに車は○○通りへはあきらかに行けない方向へ進路を変えだしたのです。
もう限界でした。ぼくはやっとのことで

「・・・あ、お、おろしてください!ここで、ここで大丈夫ですから!」

となんとか声を出しました。

・・・すると、意外にも運転手は「あれ、そうかい?ここじゃ遠くないかい?」とごくごく普通なトーンでしゃべりながら車を脇に寄せました。
話相手にしちゃってごめんね~などと言いながら、さきほどと比べると不自然なほど自然な対応で運転手は僕に金額を告げました。

僕は、さっきまでの恐怖心は、自分の思い過ごしだったのか?僕が神経質に感じ取りすぎていたのか?と、いったい何が現実だったのかわからなくなるような、白昼夢を見ていたような気分でし

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