洒落怖
発狂したらしい

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やがて、ソレは不意に私の手を放しました。辺りからは、誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえます。
私はいつの間にか開けられるようになっていた目を、ゆっくりと開きました。
私の周りには傘をさした大人が数名、駆け寄ってきます。
どうやらハイキングコースの入口にあたる、駐車場兼広場にいるようです。
こちらへ駆け寄ってくる人影の中に、父と、母の姿もありました。

693 12/12 sage New! 2009/10/05(月) 17:03:08 ID:9IzgCcHu0
昔、と言っても遠い昔のことではなく、戦後すぐくらいの頃。
まだろくに道も整備されていない山の中て、一人の女の子が行方不明になりました。
ふもとの町では大人たちが集められ、山狩りまで行われましたが、
結局女の子は見つからなかったのだそうです。
それからも度々同じようなことが起こりました。
山へいった子供が、あるいは崩れてきた土に潰され、あるいは川に流されて、その命を落としてしまうのです。
みんながみんな助からなかったわけではなく、中には山で迷いながらも無事に戻ってくる子もいました。
しかし彼らはみんな、口をそろえてこう言います。
「山の中を歩いている時、誰かに手を引っぱられた」
そして彼らの右手首には、決まって手の形をしたアザがあるのです。
もしかしたら、先に行方不明となった女の子の崇りなんじゃ?
いつしかそんな噂が町に広まり、大人たちで話し合った結果、
最初の男の子が犠牲となった崖の近くに小さな祠とお地蔵様を置いて、崇りを鎮めようとしたのでした。

けれど後に聞いた話では、手の形をしたアザがあるのは無事に戻ってきた子にだけで、
遺体となって発見された子供たちの身体には、手形のアザは一つとして見つかることは無かったそうです。
山で最初に亡くなった女の子は、果たして本当に崇りを起こしていたのでしょうか?
私はあの時、駆け寄ってきた両親に抱きしめられながら、
誰が自分をここまで連れてきてくれたのかと尋ねました。
しかし両親を始めとしてその場に居合わせた大人達は、みんな口をそろえて
「お前は一人で戻ってきたじゃないか。だれも一緒にはいなかったよ」
と言いました。
その時、私は祖母から聞いた話を思い出したのです。

「あの子は神様に連れて行かれて、あの山の山神様になったんだよ。
きっと、これから私たちのことを守ってくれる」

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