洒落怖
さよなら

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マスターキーで部屋を開ける。女性は鼾をかいて眠っていた。

白いドレス姿で。

「きっと、婚約者にフられたんだろうな」
支配人はそう呟いた。
さて、当時の支配人と、その上司の目は、自然とベッドの横に行った。
そのスタンド付きの小さな机には沢山の錠剤の殻が散乱していた。睡眠薬を使った自殺だとすぐに判る。
そして、電話側のメモ帳にはぐにゃぐにゃと曲がった文字が書いてあった。
「あの文章が忘れられないんだよ」
支配人は言った。

 4時××分
 さようなら。
 

403 自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/13(水) 17:07:38 ID:+DwZyniQO
支配人が電話を受けて、すぐの事だったらしい。
支配人と当時の支配人の上司は救急車を呼んだ。鼾をかきつづける女性が入れられた救急車を見送った後、
支配人の上司は、
「あれはもう、ダメだな」
そう言ったそうだ。
ここまで言い終えて支配人は溜め息をついた。
「あの息遣いは、薬を飲み下した後の息だったんだな」
話はまだ続く。
それから数ヶ月して、支配人がまたナイトを担当した時に、暗い顔をした中年夫婦が来た。
「○○○号室は開いてますか」
夫婦のその言葉を聞いて、支配人は理解してしまった。
あの女性は結局、死んだのだと。

「けどさあ、おかしいよな」
話し終えた支配人は続けて言った。
「なんで、ルームナンバー知ってんだよ」

404 自治スレでローカルルール他を議論中 sage 2010/10/13(水) 17:12:20 ID:+DwZyniQO
「そりゃあ、聞いたんだろうよ」
支配人の話を俺の口から聞き終えたAは何杯目だったかのビールを飲み干して言った。
「誰に」
「わかってんだろ」
嫌な笑顔で言い返された。そんな気はしてた。
救急隊員から聞いたのかもと思ったが、支配人が疑問に感じるという時点で、
その推理は間違ってるという事になる。
「でもよ、泣ける話だよな」
は? 俺は間抜けな言葉を返した。こいつの頭の中では両親の枕元に立つのが親孝行なのか?
そんな事を一瞬考えた俺に、Aは嫌な笑いを見せた。
「そのさようなら、ってのは、誰に向けた言葉だ?」
「誰って」
家族とか、その彼氏とかだろう。ウェディングドレスを着て結婚式を挙げる予定だった。
その事を告げるとAは
「彼氏は含めない。家族だけだ。だってドレスを着てるんだ。
 自分を捨てた相手に、ウェディングドレスを着てさようなら、なんて言わないだろ」
そう言われるとそんな気がしてきた。けど、彼氏は含めない理由が解らない。
それに、自分を捨てた彼氏に対する当て付けとも考えられる。
「ああ、前提が違うんだよ、お前は」
俺の反論を聞いてAは笑みを深くした。
「彼氏は死んでるんだ。だから、彼氏は含めない。だから、メモは残した家族に向けたさようならだ。
 だから、ウェディングドレスを着た。これから彼氏に会うんだ。さようならなんて言わない」
だから、を連呼してAは締めくくった。
「な、感動できる話だろ?」
どっちが本当のことかは分からない。
個人的には、きっとAは間違っていて、正しいというか正解に近いのは俺の方だと思う。
けれど、あの時、自分には判るとでも言うように断言したAを見ていると、どちらなのか、解らなくなってくる。

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