洒落怖
自動車保険会社の男

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265 243 sage 2010/02/07(日) 01:17:29 ID:RtFP89Q80
保険会社からだった。

「あ、Yさん大丈夫ですか」
「はい」
「あの、あと10分ほどで救助スタッフ到着するそうなので、もう
少しの辛抱です。大丈夫ですか?」
「あんまり大丈夫じゃないです。」
「あの、念のため警察にも通報を入れたので、それもそちらに
向かっていますので・・・」
「私は、この場に居たほうが良いんですか?それとも逃げた方が
良いんでしょうか?」
「あの、実はですね・・・」
「はい」
「Yさんが現在いらっしゃる近辺、刑務所があるそうなんですよ」
「え?」
「その辺りいつもなら夜中に巡回のパトカーなんかもいるらしいん
ですが、今夜は台風でそれもないので、十分に気をつけてくれ、
とのことでした。」

268 243 sage 2010/02/07(日) 02:01:07 ID:RtFP89Q80
電話を切ったけど、車内に戻る気にもなれなかったYは、念のためもう
一度軽トラの周りを一周してみることにした。男の姿が忽然と見えなく
なったことが、とにかく不安だった。そうしてYが、ちょうど軽トラの
真後ろにまわり込んだとき、突然、軽トラのエンジンが掛かる音がした。
まさかと思ったが、雨の中軽トラが地響きを立てて動き出した。しかも
バックに。Yは慌ててバシャバシャ水を蹴りながら、後ろに逃げた。だけど、
軽トラはまだ下がってきた。のっそりと。Yが真後ろにいるのが分かっていて
あえてじりじりと押し潰そうとするように下がってきた。Yは軽くパニックに
なった。逃げても逃げても、トラックは後ろ向きに迫ってきた。

そのとき、逃げ惑うYの目に、こちらに近づいてくる車の明かりが飛び込んで
きた。Yはそれにむかって必死で走った。
今度こそ本当に保険会社のロゴの入った大型車だった。
271 243 sage 2010/02/07(日) 02:37:31 ID:RtFP89Q80
軽トラはYを追うのをやめて、前方にすごい速さで走り去って行った。
Yは雨の中倒れこんで、保険会社の救助スタッフに抱き起こされた。
保険会社のスタッフ2人もYをひき殺そうとする軽トラをちゃんと見ていた。

Yの車は何もされていなかった。窓ガラスが粉々に割られていたとか、扉が
外されていたとか、シートがズタズタにされていたとか、タイヤがすべて
パンクさせられていたとか、フロントガラスに手形がいっぱいついていた
とかいうことも何もなく、雨の浸水被害だけで、人為的な損壊は本当に何も
なかったそうだ。だから、あの男が雨の中でなにをしていたのかは全く不明。
あの謎の紅茶も、毒だとか睡眠薬が入っていたとかいうことも何もなく、
本当にただの紅茶だったらしい。一応警察に、男の人相なんかも話した
らしいけど、指名手配犯にそんな奴はいないし、近くにあるっていう刑務所
内でもその日は脱走犯とかいなかった。別にその辺りは事故現場で、幽霊が
出るとかいわくつきスポットでもないし、だから本当に、あの青年が何者で
何が目的なのか誰にも分からない。なんでYをひき殺そうとするみたいに突然
バックしてきたのかも謎。ただ、ちょっと気味の悪い事件だったから、その後
保険会社からはYに解約して欲しいって言われたらしい。

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