洒落怖
ゴリゴリ

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今はもう亡くなってしまったばあちゃんの話。
終戦後、中国から引き上げて来て、新潟に居を構えた母方の祖父母だ。
じいちゃんはなんとか仕事に復帰し、家族はようやく何もないところから
人並みの暮らしで再出発ができようとしていた時期のこと。
じいちゃんの帰りはいつも遅かった。

当時、お袋の妹(おいらにとっては小母さん)が熱を出して寝込んでた。
多分風邪だったんだと思う。
なかなか熱が下がらず、今でいう発熱性ショック状態だった小母さんは、苦しい息で
布団のなか、喘いでいた。
風通しを良くしようと、それぞれ東・南・北に向いた障子窓をすこしづつ開けて
おいたという。

東向きの障子窓の隙間からは、昇りはじめた紅黒い満月が大きく顔を覗かせていた。
月明かりを受けた赤暗い部屋のなかで、ばあちゃん、伯母さん、お袋は三人揃って
小母さんの看病をしてた。

障子窓から、風がひゅうと吹き込んできたのに気づいた伯母さんが、それを閉めようと
東向きの障子に手をかけたとき、伯母さんは外に何かを見た。
なんだろ?
向こうの畦道から、提灯の明かりが近付いてくる。
紅い月明かりの逆光で、誰だかは判らない。
目を凝らすと、何かをずるずると引きずっていることに気づいた。

595 本当にあった怖い名無し sage 2009/11/02(月) 10:53:00 ID:rVs4z7U70
「お母さん!お父さんが帰ってきたよ!」
小母さんの氷嚢を変えながら、ばあちゃんがいう。
「お父さんはそっちの道からは帰ってこないよ」

「じゃあ、あれはだれ?」
提灯の明かりは、次第に近づいてくる。そしてその速度が速くなってきた。
こちらに走って来ているのだ。
ずるずるずる!ずるずるずる!ずるずるずる!引きずる音も大きくなる。

お袋も、この音に反応して、不安そうに叫んだ。
「お父さんは、出る時、こんな音のする荷物持っていかなかったよ!」
おばあちゃんはとっさに、障子窓に飛びつき、横で動けないでいる伯母さんに
叫んだ。
「●子(伯母さんの名前)!早くそれを閉めなさい!」
ぴしゃり… 言われるまま障子を閉めた、その途端、

バァアアン!
すごい音がして、閉めたばかりの障子戸が大きく歪んだ。障子紙が吹き飛んだ。
まだ身体の小さかった伯母さんは、後ろにのけぞって尻もちをついてしまった。

ゴロ…ゴロゴロ…ゴリゴリゴリ!
次いで、漆喰の外壁を削り取るような音が、向って右手の壁の向こう側を、南へと
移動し始めた。

596 本当にあった怖い名無し sage 2009/11/02(月) 10:54:09 ID:rVs4z7U70
その先には南向きの別の障子窓がある。
今度は、ばあちゃんが転がるようにその窓にとりついて、しっかりと身体で抑え込んだ。
ゴリゴリという音はそこを通り過ぎ、西側に回り込んでくる。
その先はもう一つの部屋に続く、西向きの引き戸だった。

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