洒落怖
白い手

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551 : 本当にあった怖い名無し : 2012/06/07(木) 22:31:32.46 ID:pZEyNbLRi
俺は害虫駆除という仕事をしている。
そのため深夜のビルや民家の屋根裏、
果てはマンホールの奥深くなど
普通に生活している分にはまず
立ち入らない様な場所に度々出入りする。

あれは新宿の小さなビルに作業に入った時の事だ。
予め借りておいた鍵を使用して無人の事務所を開けて、効くんだか効かないんだかよく解らない薬剤を散布するという不毛な作業に勤しんでいた。
この作業が終われば明日は休みという事も手伝ってか、全くやる気は起こらない。
自らの怠惰と戦いながら、作業を順調にこなす。
深夜の2時を回った頃だったろうか。
尿意を覚えた俺は、事務所内に設置された誰も居ないトイレに律儀に失礼しますと声を掛けて入った。

552 : 551 : 2012/06/07(木) 22:38:57.83 ID:pZEyNbLRi
このビルは見てくれは古いが中の電気系統は改装でもしたのか新しくなっている。
事務所や廊下はモチロンの事、トイレの中にまでセンサーがあり、人が入ると勝手に電気が付くようになっているのだ。
こういうのを見ると現代人のものぐさ根性ここに極まれりと感じる。
こんなどうでもいい所より外見を直した方が良いんじゃいのかと独りごちてそそくさと入室する。
そして小便をしようとチャックをおろした時、ふとトイレ内の異様な気配に気付いた。別段物音がした、という訳ではない。
例えるなら、髪を洗っている時に背後が無性に気になるような感覚だ。
何となく落ち着かなくなり、小便をしながら首だけでトイレを見渡す。と、4つある個室に目が留まった。開放された3つのドアと、そして奥から2番目に一つだけ閉じたドア。ドキリと心臓がひときわ大きく脈動する。何故ドアが閉まっているんだ?
このビルには俺一人しかいないはずなのに。入る時に電灯が自動点灯したころからも、このトイレには人が居なかった事は確かだ。

553 : 551 : 2012/06/07(木) 22:43:09.09 ID:pZEyNbLRi
目を離す事が出来ず、首を巡らせたままの姿勢で小便を絞り出してチャックを閉める。そろそろと件のドアに近付く。
ドアの解錠を示す青いマークを確認してからゆっくりと右手で押し開けた。
キィ と蝶番が音を立てて開いていく。
そこには何の変哲もない、ただの和式便座があった。何のことは無い。洋式の便所は人が居なければ開放されるようになっており、反対に和式の便所は居なければ閉まるようになっているのだ。
まったく、自分のバカさ加減に嫌気がさす。はぁ、と暫し忘れていた呼吸を再開して、誰が見ていた訳でもないのに照れ隠しで頭を掻いた。
「 アホくさ。」一人呟いて仕事を再開しようとした時、一つ気付いた。閉まっていたのは奥から2番目のドアで、一番奥は開いていた。
通常、個室が複数設置されているトイレには和式便器は一つか、多くても二つだ。
そして一つの場合はほぼ確実に一番奥の個室に割り当てられる。これは多くのビルに作業で入った経験から間違いない。二つある場合は和式便器は奥に二つ並んであるのが普通だ。

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