この怖い話は約 4 分で読めます。
598 豊穣の山 3 sage 2010/04/03(土) 03:00:35 ID:8itWCBvw0
俺は泣きじゃくった。泣きじゃくりながらサンダルを脱ぎ捨て、大人を捜して廊下を駆けた。
後の方で女性の悲鳴。俺の母親の声だ。俺はUターンし、母親に合流しようとして、(多分)悲鳴を上げた。
廊下には点々と、小さな足跡が続いている。ただの足跡ではない。血の色をした足跡だ。
何かの怪物に追いかけられている! 俺の背後に姿の見えない何物かが血の足跡を残しながら迫ってくる!
俺は客間や和室を横切りながら、大人達の姿を求めつつ、見えない怪物から逃げ続けた。
もちろん自分の足跡であることは自明なのだが、なぜかその時の俺はそれに気付かず、パニックを加速させた。
ペタペタと小さな血の足跡をあちこちに残しながら、家中を走り回った。
じいちゃんの家は広い。だが、流石に騒ぎを聞きつけ、親戚のおじさんおばさんが姿を見せた。
親戚のおばさんにしがみつき、おじさんがライター、ライター叫んでいると、玄関辺りで母親が二度目に悲鳴を上げた。
騒然とする親戚に囲まれながら、血で汚れた廊下を抜けると、おろおろする俺の母親と玄関で泣き叫ぶ従兄弟が従兄弟がいた。
血まみれで山ヒルを体中にたくさんぶら下げた従兄弟の姿に、地元在住の親戚も流石にどよめいた。
おじさん達とじいちゃんがライターで山ヒルを炙ると、あれほどしがみついていた山ヒルが面白いように落ちる。
従兄弟はシャツを脱がされ、全裸で玄関前に立ち、大人達によって全身の山ヒルを徹底的に駆除された。
山ヒルは一匹残らず落とされた。落ちた山ヒルは大人達に踏みつぶされ、沸騰したお湯で洗い流された。
だが、俺の足も従兄弟の身体からもじわじわと出血は続いている。薬を塗ってもなかなか血は止まらない。
すぐに救急車が呼ばれ、俺と従兄弟、そしてそれぞれの父親が付き添って病院へ向かった。
599 豊穣の山 4 sage 2010/04/03(土) 03:13:03 ID:8itWCBvw0
山ヒルに噛まれると、痛みはないが、血液の凝固作用を弱くする物質が分泌され、血が止まりにくくなる。
その後、うんざりするような痒みがしばらく続くのだ。これは薬を塗ってもらったらすぐに収まった。
俺は大したことなかったが、従兄弟は噛まれた箇所が多く、小さい体から大量に吸い取られたことも考慮して、
点滴をしながら一晩様子見で入院することとなった。従兄弟の父親も付き添うことになった。
病室の従兄弟はなぜか包帯まみれで、顔色も心なしか青白かった。
「ごめんな・・・・・・」
俺はその理由もはっきりしないまま頭を下げた。
「紙、ありがとうな」
あのポケットティッシュのことだろう。
病室を出たら、なぜか警官が二人立っていた。誰が呼んだのかは知らない。
そして俺は虫を捕りに山に入ったこと、従兄弟が野グソをしたこと、従兄弟が山ヒルまみれになったこと、
家に帰ったら謎の存在に追いかけられたこと(警官が興味を持ったが、俺の父親が即座に否定した)、
大人達が従兄弟を裸にして山ヒルを駆除したことまで、(子ども目線で)詳しく話した。
次の日、じいちゃんや近所の人らが草刈り機片手に集まって、裏山の草を一斉に刈っていた。
その後、農薬みたいなのを撒いていた。変な匂いがじいちゃんの家まで届いていた。
結局、従兄弟は二週間ほど入院したそうだ。血が止まらないのもあるが、感染とか色々検査したようだ。
田舎から都会に戻った俺も母親に連れて行かれて病院で検査した。その時は感染よりも注射がイヤだった。
翌年、従兄弟と再会しても、虫取りをする気にはならず、当然、裏山にも近づかなかった。