後味の悪い話
死首の咲顔(えがお)

この怖い話は約 3 分で読めます。

『春雨物語』の「死首の咲顔(えがお)」。

主人公の家は元は由緒あった武家の系統を引く郷士で、今は商売で栄えていた。
主人公は書物を好み、また見かけによらず弓などにも秀でた好青年だったが、
父親は「教養など一銭の役にも立たん!」という実利一辺倒で欲深く狭量な人物だった。
村内の親戚筋には同年代の若者がいて、妹と母親の三人暮らしだった。
貧しい家のため父親はこの者らを毛嫌いしていたが、息子同士は仲が良かった。
また、主人公はその妹とも懇意で、主人公から書を習い、貧しいながら聡明な娘だった。
二人は将来を言い交わし、兄や母もそれを歓迎していた。

年頃になって仲も深まり、ある日一家の兄が妹を嫁に貰ってほしいと
正式に主人公の父母のもとへ挨拶に行くと、父親は激怒して
一家の貧しさをあげつらい侮辱的な罵声を浴びせて追い返してしまった。
悲嘆して妹は病に寝付いたが、主人公は父親の目を盗んで密かに見舞い、
「約束は絶対に守る。駆け落ちだっていとわない。
だが、親に孝行もせぬうちに出奔するのは、人の道理に反する。
必ず迎えに来るから、今しばらくは堪えて待っていてくれ」と励ます。
逢いに行っていたのがバレて主人公はまた父親から激怒を食らうが、
詫びを入れ、書物も封じ、父親の言いつけどおりひたすら汗して実利商売にのみ働いた。

74 : 本当にあった怖い名無し : 2009/08/19(水) 00:43:12 ID:UVFAR2i10
そうこうするうちに、妹の病がますます重くなり、余命も危ぶまれた。
知らせを受けた主人公は、「かくなる上は、せめて短い間だけでも夫婦に」と
兄と相談をまとめに駆け付け、自宅へ妹を輿入れに向かわせた。
門を入って、「ここの嫡男の嫁である以上、この家で死なせて墓へ入れてくれ」
と兄は願い出、主人公も「この人は私の妻です」と言うが、
父親は当然「突然やって来て勝手な事ぬかすなぁ!」と怒り狂って沸騰状態。
「もういいです、最期の時を二人で過ごしましょう」と主人公が娘の手を取って門を出かけると、
その時突如、兄が「いや、この家から出ることは罷りならん! お前はここで死ぬのだ!」と
正装して身に着けていた刀で妹の首を斬り落とした。さては発狂したのかと思われたが、
それを見た主人公は、まるで先刻承知だったかのように平然と娘の首を拾って歩き出した。
「その首を我が家の墓地へ納める気か!? おのれ、許さんぞ! 人殺しの犯罪者どもめ!」と、
父の号令で主人公と兄は捕えられ、代官所に引き渡された。

「おたくの息子は気が触れたぞ!」と、家で待っていた娘の母親に村役が知らせに駆け付けたが、
この母親もまた、「そうですか、それはどうもご苦労様です」と平然と受け答えした。
斬り落とされる瞬間の娘の首も微笑みを浮かべており、どうやら妹・兄・母・主人公の
四人の予てからの示し合わせで、こういう結着になる事は覚悟の上だったようだ。

裁きの結果、「妹の斬首は母親も許可していたことなので、兄を罪に問わない」
「主人公の父親こそ、何も罪無きようで罪多し。家財没収のうえ放逐」
「ただし、妹の殺害は無罪なれど、世間を騒乱させた咎で、兄・母・主人公も追放」
ということになった。
父親は、「お前など勘当だ! 私一人で他所で商売を再興する!」と捨て台詞を残して去り、
その後の行方は誰も知らない。主人公は剃髪して山寺へ入った。
主人公の母親も、実家へ戻った後、余生は尼として過ごした。
娘の兄と母は、他村へ移り、今までどおり貧しいながら耕作して穏やかに暮らした。

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