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ノックを聞いてドアに向かうまでが遠い。
元々はドアがなかった場所に無理矢理取り付けたのだろう、そこだけ真新しい。
それはトイレにも言える事で、綺麗なのはいいが、建物に不釣り合いな新しさだった。
美保は俺達の部屋を見て回ると、
「あっちと大体同じだね。あっちは窓から町と山が見える。
あと、ここと同じ様な部屋の固まりが幾つかあるみたい。」と言った。
部屋置きのガイドに、避難経路などの書かれた館内図があったので見てみると、
確かにここと同じ、細い階段を上がった所に一~三部屋がある造りが幾つもある。
もう一つの棟…本館は普通の構造のようだが、別館は隔離された小部屋の集合だ。
しかも客室は全て二階で、一階には風呂、食堂、娯楽施設等が収まっている。
俺は何だか違和感を覚えた。それと同時に、美保が声をひそめて言った。

「実はお姉ちゃんがさ、あっちの部屋に入るなり“何かここ嫌だな”って言ったんだ。」
お姉ちゃんとは亜矢ねえの事だ。そして、それは珍しい事だった。
おかしなものに遭遇する場所に、行き当たらない「体質」なのだ。
だから彼女の弟といとこ関係とは別にオタ友としてつるんでいる俺も、
彼女がそんな事を言うのを見た事がない。言う必要がない。

787 旅館3/5 ◆BxZntdZHxQ sage New! 2008/05/07(水) 00:18:54 ID:fcHZQV3T0
「今はサクと明日の相談してるけど、あたし気になっちゃって。」
俺も気になる。だが、美保は別に何もおかしな感じはしなかったと言う。
俺や智宏も0感でこそないが、美保はそれ以上に“見た話”を聞かせてくれるし、
俺はこいつと同じものを同時に見た事があったから、
美保の霊感話は大袈裟な可能性こそあれ、信用出来ると思っている。
その美保が何ともないものを、嫌な感じとは…一体何があるのだろうか。
俺は確認したい様なしたくない様な気持ちになったが、結局部屋には行かなかった。
好奇心はあるが、それ以上にチキンなのでどうしようもない。

階下の食堂で夕食をとった後、俺達は各々部屋に戻った。
智宏と郁はTVを肴に一杯やり始め、下戸の俺は最初のうちこそ付き合っていたが、
だんだん飽きて来て、先に風呂に入って来ると言って抜け出した。
狭い階段を身を屈めて下り、風呂場に向かう。
「大浴場」などと書いてあるが、家庭風呂を拡大コピーしたみたいな貧相な風呂だ。
俺はステンレスの、真新しく巨大なバスタブにげんなりして、早々に上がった。

脱衣場を出ると、廊下は照明が落とされて薄暗くなっていた。
そう言えば十時で消灯すると言われた気がする。
左手に自動販売機コーナーの明かりが見えていて、人の気配がした。
俺も何か買って部屋に戻ろうかとぼんやりそちらを眺めていたら、見知った顔が覗いた。
「あれ?ナオ?」
美保だった。近くまで行くと、奥で一番下の従妹・桜がジュースを選んでいる。
「二人だけ?亜矢ねえは?」
俺は胸騒ぎがした。部屋が嫌だと言った亜矢ねえが、一人で部屋に残っているのか。
美保の返事を待たずに、俺は階段を小走りに上がった。
奥の部屋へ行き、ドアをノックする。

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