犬・猫、動物
普通の犬じゃない

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「どちらにしても。とてもではないけれどうちでは他の引き取り先もみつけられないんです。かわいそうだけど処分するしかありません。 だから引き取っていただけるならこんなに嬉しいことはないんですけど。」

そんなことを言う担当者に私は彼女の抱く懸念ではなく何故引き取り先もみつけられないのか問うた。
彼女はおずおずと封筒を差出し目をそらす、私は中身を見て言葉を失った。
カメラが向けられることをいやがっているからその顔は威嚇と怒りにゆがんでいたが、そんなものはかわいらしい。
どうみても犬やら猫やら動物の顔としか思えない模様めいたものがいくつも浮かんでいたのである。
「カメラをいやがるだけだったらいいんですけど。撮る度こんなではとても支援者のかたにはみせれないんです。」
そういわれているあいだ中わたしは八房をながめた、相変わらず八房は私をにらみつけている。
ケージの中から向けられる射抜くような視線、ケージからだされたら首にでもくいつかれそうだった。
しばらく無言でいたことを担当者はひきとる気が失せたとおもったのか、封筒にいれられた金を出し

「供養はてあつくお願いしいます」
と声をひそめた。

679 本当にあった怖い名無し sage 2006/12/14(木) 13:19:13 ID:J5SBgyey0
「餌代としてもらっておきますよ。これから物入りになりそうなので。 そういうことならいいでしょう?」

そういって私がふところにそれをしまうと彼女は驚いて顔をあげた。
にらみあいのあいだに私は彼の名前をすでに用意していた。

「よくも悪くもこんなに霊験あらたかな犬なんてほかにいないでしょ? な、八房」

考えた名をよんでみるとはじめて音で意図を示された、ぐるるという唸り声。
返事をするということは気に入らなかったわけじゃなかろうと。

「でも… 危ないですよ。 解散した団体にも不可解なことがいくつも」

心変わりをうながそうとする担当者を手で制し。
「これが一番なんです、私にとっては。」
そういいながらどうやって示したものか考え、思いつきでジャーキーを取りだし試しにケージについた穴に近づけた。
指にかみつかんばかり(というか最初からそのつもりだろう)に勢いよくだがくらいついてはくれた。

「ね? 普通の犬じゃこうはいかない。警戒して食わないところです。 私ならうまくやってけます。」

すでに八房との生活のプランは頭の中にあった。
自信をもっていうと担当者は八房とわたしをみくらべたあと、しばし話をしてから去っていった。

681 本当にあった怖い名無し sage 2006/12/14(木) 13:21:33 ID:J5SBgyey0
こうして私は八房の犬となった。

彼は生きている間にかずかずの不幸を私にもってきてくれた。
保健所の中にやってくる犬達の中で情を通わせた犬がいると感づいて吠え立てる。
引き取れと命じるのだ。
基本的にわたしは八房の命令に忠実だった。
だが、家計のためにとやむなく見捨てた時は医者にも原因不明だという高熱に一週間もやられたものだ。
人間が動物に都合をおしつける世の中で、八房だけが動物の都合を人間におしつけられる立場だった。
とはいえそれではこっち餓死するし、そうなると犬達の面倒は到底できない。
さしもの八房も人間の言語まではわからずディスカッションは混迷を極めたが辛うじて私の生存ラインの出費の範囲内で納得してもらえるようになった。
だがそんな幸せな生活も長くはつづなかった。
彼はたかだか三年私のもとで生きて、亡くなってしまった。
八房の魂がまだ肉の内にとらわれている内になんとか八房との関係修繕をしたかった。

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