田舎・地方の習慣
抱き合わせ

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537 533 ◆ZaP/OGw4gU 2009/02/19(木) 19:51:55 ID:TEqjvpEI0
いいくらいに酒も進んできた親父が、「ところでなんでそんな話知ってるんだ?」と俺に聞いてきた。
俺は郷土史の本に書いてあったと言ったら、「他にどんなことが書いてある?」と聞いてきた。
親父も興味が出てきたようで、俺はその郷土史を開いて該当箇所を読み聞かせた。

大体こんなことが書いてあった。

・大昔から飢饉が多かったから、当時の人々は神仏に助けを求めた。
・神社の御神体は関西方面から貰われて来た。
・非常にご利益があるご神体らしい。
・山頂から下ろされてきた時、俺の家の近所の家(仮にA家)がその神社の『守り』になった。

読んだら、親父の顔色が急に変わった。明らかにピクッ、という感じで酒を飲む手が止まった。
「その守りってどこの家だ?」と聞いて来たのでもう一度「A家だ」と俺が言ったら、
「ああ……」と何か納得したような顔になった。しかし依然として表情が強張っていた。

538 533 ◆ZaP/OGw4gU 2009/02/19(木) 19:55:55 ID:TEqjvpEI0
その家は俺の家から数キロ離れた場所にある家で、俺の家とはあんまり関係がない。
しかし、親父の反応が気になったので、俺はどうしたと問いただしたんだけど、
親父は答えない。明らかに話すのを嫌がってる感じだった。

けれど、俺がなおもしつこく問いただしたら下を向いてポツリと呟いた。

「あの家、今もよくねぇもん」

良くない、というのは東北の田舎なら『悪い』というニュアンスになる。
俺がどうよくないんだと聞いたら、親父が何か覚悟を決めたような顔になって、
「俺も良くは知らねぇ」と前置きしてから話し出した。

540 533 ◆ZaP/OGw4gU 2009/02/19(木) 19:58:20 ID:TEqjvpEI0

親父の話によると、その家は俗にいう『村八分』みたいな状態になっているとのこと。
『村八分』というと語弊があるけど、とにかく周囲の家はA家とあまり深く付き合いたがらないし、
A家も周囲の家と付き合うのを拒んでいるらしい。言うなれば一軒だけ被差別部落状態。
知っての通り、東北には被差別部落は存在していないのにも関わらず。

「どうして」と聞いたら、どうもその『守り』というのにいわくがあるらしい。

関西からその神社のご神体が貰われて来たとき、この地方に、
ご神体と一緒に何か『良くないもの』も一緒に持ち込まれたのだという。

無論、その『良くないもの』までが、ある種の呪物なのか、それとも風習とか文化のことを指していたのか、
そこまではわからないけど、とにかく『守り』というからにはちゃんとした物だと思う。

親父は、「なるほどな……A家だったのか……道理で……」としきりに頷いていた。

つまり、その本と親父の話を合わせて考えると、その神社とご神体、
それとその『良くないもの』を外に出さないように『守る(管理する)』家の末裔がA家ということになる。

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