心霊良い話
山祭り

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683 本当にあった怖い名無しさん sage 2005/08/11(木) 21:04:07 ID:g8BCG55k0
またまた>>618のコピペ隊です。怖い話ばかりだと後ろを振り向けないので良ければ気晴らしにどうぞ。

100 :N.W:2005/07/25(月) 07:06:10 ID:CFXfTZUN0
久しぶりに休みが取れた。たった2日だけど、携帯で探される事もたぶんないだろう。
ボーナスも出た事だし、母に何か旨いものでも食わせてやろう。そう思って京都・貴船の
旅館へ電話を掛けてみた。川床のシーズン中だが、平日だったから宿が取れた。
母に連絡を取ると大喜びで、鞍馬も歩いてみたいと言う。俺に異存はなかった。
京阪出町柳から叡山電鉄鞍馬駅まで約30分。その間に景色は碁盤の目のような街中から
里山を過ぎ、一気に山の中へと変化する。また、鞍馬から山越えで貴船へ抜けるコースは、
履き慣れた靴があればファミリーでも2時間前後で歩く事が出来るし、日帰りなら逆に、
貴船から鞍馬へ抜け、鞍馬温泉を使って帰る手もある。
その日もさわやかな好天だった。荷物を持って歩くのも面倒なので、宿に頼んで預かって
もらい、それから鞍馬山へ行った。堂々たる山門を潜った瞬間、いきなり強い風が吹き、
俺を目指して枯葉がザバザバ降って来る。落葉の季節ではないのだが、母とくれば必ず
こういう目に遭う。天狗の散華だ、と母は言う。迷惑な事だ。途中からロープウェイも
あるが、母は歩く方を好むので、ところどころ急な坂のある参道を歩いて本殿を目指す。
由岐神社を過ぎると、先々の大木の中程の高さの枝が、微妙にたわむ。毎度の事だが。
鞍馬寺金堂でお参りした後、奥の院へ向かって木の根道を歩く。
魔王殿の前で、一人の小柄で上品な感じの老人が、良い声で謡っていた。
“…花咲かば、告げんと言ひし山里の、使ひは来たり馬に鞍。鞍馬の山のうず桜…”
言霊が周囲の木立に広がって行くようで、思わず足を止め、聞き惚れた。
最後の一声が余韻を残して空に消えた時、同じように立ち止まっていた人たちの間から、
溜め息と拍手が湧き起こる。老人はにっこり笑って、大杉権現の方へ立ち去った。
684 本当にあった怖い名無しさん sage 2005/08/11(木) 21:07:22 ID:g8BCG55k0
101 :N.W:2005/07/25(月) 07:07:24 ID:CFXfTZUN0
鞍馬山を下り、貴船川に沿って歩く。真夏の昼日中だと言うのに、空気がひんやりして
気持ちがいい。流れの上には幾つもの川床。週末は人で溢れているのだろうが、今日は
そうでもない。少し離れると、清冽な流れの中、カワガラスが小魚を追って水を潜り、
アオサギがじっと獲物を待つ。もう備えの出来たススキが揺れる上を、トンボたちが
飛び回る。
貴船神社へお参りに行く人は多いが、奥宮へ参る人は少ない。その静けさを楽しみ
ながら、奥宮の船形石の横の小さな社に手を合わせる。弟たちも連れて来てやれれば
よかったが、何分にも平日の急な事。学生時分ならともかく、社会人がそうそう手前
勝手な事をする訳にはいかない。母とそんな話をしながら振り返ると、さっき魔王殿の
前で謡っていた老人がこっちへ歩いて来るところだった。軽く会釈すると、向こうも
にこっと笑って片手を挙げる。
「先程は、良いものを聞かせて頂いて、ありがとうございました」
「いやいや、お恥ずかしい」老人は首を横に振り、俺と母を見やりながら
「親子旅ですか、よろしいなぁ。ええ日にここへ来はった。今日は“山祭り”や」
「まあ、お祭りがあるんですか」祭りと聞いて、母の気持ちが弾むのがわかる。
老人が教えてくれる。
「今晩、川床の灯りが消えた時分から、この先の方でありますねん。“山祭り”は
時が合わなんだら成りませんし、ほんまの夜祭りやから、知らん人の方が多いんや。
もし、行かはるんやったら、浴衣着て行きはった方がよろし。その方が、踊りの
中へも入りやすいよって」
母は既に行きたくてワクワクしている。一時、『盆踊り命』だった人だから。
ま、いいか。俺は盆踊りは嫌いだが、仕方ない。付き合うか。

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