師匠シリーズ
黒い手

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59 黒い手  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2006/10/15(日) 21:05:16 ID:lY9MF+tv0
箱の位置を確認するのに、どうして見回さなければならないのか、その時はおかしいと思わなかった。
本棚の上にあった。置いた時のままの状態で。
けれど、僕の頬に触ったのは手だった。それもひどく冷たい手の平だった。
思わず箱の蓋に手をかける。そしてそのままの姿勢で固まった。
昔から「開けてはいけない」と言われたものを開けてしまう子供ではなかった。
触らぬ神に祟りなしとは、至言だと思う。でも、そんな殻を破りたくて、師匠の後ろをついていってるのじゃないか。
そうだ。それに箱を開けたらダメだとか、そんなことは噂にはなかった。音響が言っているだけじゃないか。
そんなことを考えていると、ある言葉が脳裏に浮かんだ。
僕はそれを思い出したとたんに、躊躇なく箱の蓋を取り払った。
中にはガサガサした紙があり、それにつつまれるように黒い手が1本横たわっている。
マネキンの手だった。
ハハハハと思わず笑いがこみ上げてくる。こんなものを有難がっていたなんて。
手にとって、かざしてみる。
なんの変哲もない黒いマネキンの手だ。左手で、それも指の爪が長めに作られているところを見ると、女性用だ。案の定だった。
あの時、音響は確かに言った。「結婚指輪でも買ってやれば・・・・・・」
つまり、左手で、女性なのだった。
「開けるな」と言っておきながら、音響自身は箱を開けて中を見ている。そう確信したから僕も開けられた。
なんだこのインチキは。

61 黒い手  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2006/10/15(日) 21:06:53 ID:lY9MF+tv0
僕はマネキンの手を放り出して、パソコンを立ち上げた。
今頃あのスレッドでは担がれた僕を笑っているだろうか。
ムカムカしながらスレッド名をクリックすると、予想外にも黒い手の話は全然出てきてなかった。
すでに彼らの興味は次の噂に移っていた。音響はなんと言っているだろうと思って探しても、書き込みはない。過去ログを見ても、あれから一度も書き込んでないようだ。
逃げたのか、とも思ったがなにも彼女に逃げる理由はない。俺に追及されても
「バーカバーカ」とでも書けばいいだけのことだ。
それにもともと音響は、常連の中でも出現頻度が高くない。
週に1回か多くても2回程度の書き込みペースなのだ。あれから4日しかたっていないので、現れてなくても当然といえば当然なのだった。
ふいに、マウスを持つ手が固まった。
週に1回か2回の書き込み。
心臓がドキドキしてきた。
去っていった恐怖がもう一度戻ってくるような、そんな悪寒がする。
気のせいか、耳鳴りがするような錯覚さえある。
過去ログをめくる。
『黒い手を手に入れた』日曜日
僕が目に留めた音響の書き込みだ。
そしてその次の音響の書き込みは・・・・・・
『いーよ』金曜日5日開いている。
ちょうどそんなペースなのだ。だから、おかしい。
その翌日の土曜日に音響は黒い手を僕にくれた。
だから、おかしい。
音響が黒い手を手に入れてから、その土曜日で6日目なのだ。

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