洒落怖
ヒグマの被害者

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とっさに、近くにあったタオルを口に押し込む
顎が外れんばかりに、ガタガタといい出したからだ。
金縛りにあったようにその光景から目を離せない。
耳に、咀嚼音がこびり付く。
血と排泄物の臭いが辺りに充満していくのがわかったが、どうしようもなかった。
真っ黒い大きな塊が、人らしきものの上に覆いかぶさり、腹の辺りに頭を突っ込んでいる。
そいつが顔を上げるともろに、オレと目が合う様な位置だ。
押さえつけられた人?は仰向けで、頭と足を黒い塊の前足らしきもので押さえつけられている。
その腕が時折痙攣し、着けている時計が月明かりで黄金色に反射してオレの目を奪う。
顔は見えないが、苦痛のうめき声が止まらない。

754 < 2005/04/10(日) 03:29:36 ID:JFDQ43ZU0 時間にしてどれだけだろうか? いつの間にか気を失っていたようで、目を覚ますと頭上に太陽が見えた。 時計は15時を差している。 オレはすぐさま逃げ出そうとしたが、ふと、襲われていた人間の事が気になった。 助かるわけない。早く逃げるべきだ!! その時は他人のことよりも自分の身が大事だった。 あの光景を見た後では、ロッテンもオグリも今となっては何も感じない。 あれは、テントの目の前で起きていたはずだ。 ・・・なのに、何もなかった。 それどころか、公園内には血もその臭いも、熊のいた痕跡すら無かった。 リアルな夢でも見ていたのだろうかと思ったが、思い出すだけで吐き気と震えが来る。 とても、夢とは思えなかった。 暫く呆然としていたが、熊がいる可能性がオレを正気に戻した。 慌てて金目の物と、最低限の物資をリュックに詰め込む。 テントも、ランタンも高価であったが、放置して逃げ出した。 夢中で道を引き返し、昨日の旅館に戻った時は日も傾きかけていた。 ふと、ミラーを見ると、シャブ中のような顔色のオレ。 街中を走っていたら、警察に止められそうだった。 時間を見ようとしたが、どうやら逃げる時に腕時計を付け忘れたようだった。 旅館の主人もオレの顔を見て、驚いた様子だった。 オレの話を聞いた主人は、暫く黙った後で言う。。 その公園は、随分前に無くなっているはずだという。 主人が子供の頃に公園の傍に小さな集落があったが、市町村の統廃合の結果、余りに 不便な場所なので、其れを期に皆引っ越したらしい。 翌日、主人と一緒にその場所に行ってみたが、オレの残してあったテント等以外には、何もなかった。 腕時計はあったが、ふんずけた様でガラスが割れていた。 そういう訳で、オレはあれを夢だと信じる事にした。 実際、誰も死んだ痕跡はないし、新聞でもそんな事件は報じていないからだ。 755 < 2005/04/10(日) 03:31:10 ID:JFDQ43ZU0 しかし、オレは旅行をする気分ではなく、早々に帰ることにした。 せめてもの記念にと、北海道の金時計を買った。 まあ、これぐらいしか思い出にならないというのも無粋な話しだが、何故か、その時計に目を奪われた。 頑丈なので、今でもその時計を大事にしている。

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