洒落怖
彼女の手

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ある日、電車でK子と出会った街を通る機会があった。辛くて逃げ出した街。
しかし数年ぶりに見ると妙になつかしくなり、思い切って、電車から降りてみた。
しばらく街を徘徊。
K子とよく訪れた公園の前を通りかかった時、K子の母親が、大きな犬を連れて、前方から歩いてきていることに気付いた。
俺は即座に自分の顔を手で隠した。
K子の死に目にも会わずに逃げ出した男だ。恨まれているに違いない。そう思った。
俺はうつむき加減に歩いた。あと少しですれ違う。そのくらいの距離になって、K子の母親は俺に気付いてしまった。
「あら、久しぶりじゃないの」
「あ、はい…」
ぼそりと返事をした。そして続ける。
「あの、すみませんでした」俺のその言葉から、会話の内容は彼女の思い出話になった。
俺とK子の母親は公園のベンチに座って、K子の思い出を語り合った。
どのくらい話していただろう、K子の母親は俺のことを恨んでいる様子もなく、犬を撫でながら色んな話を聞かせてくれた。
「あの、K子のお墓はどこにあるんですか?今度お墓参りに行かせてください」
俺がそう言うと、K子の母親は怪訝な表情を浮かべた。
「K子、まだ生きてるわよ」
俺は一瞬固まった。

K子は完治して退院。そして数年前に恋愛結婚、子供もいるらしい。
その事実を知って以来、俺は眠れなくなり、今では重度の不眠症だ。

あの手は誰なんだ?

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