洒落怖
思い出の居酒屋

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不謹慎なことだったのかもしれないが、その時の娘さんにはそんな気持ちは一切なく、
「こうしたら夫さんは少しは驚き、そして笑うんじゃないかしら」という思いだけだった。

奥さんのために注がれていたビールを一口分ほどこっそり手に持っていた新しい布巾の中にたらし、その布巾をさっと隠した。
夫さんが出てこれを見たらきっと驚くだろう。そしたら「あら、奥さんが少し飲まれたのかしら」と言ってみよう・・・。
ほろ酔い気分でトイレから帰ってきた夫さんが発した言葉は意外なものだった。
「A子ちゃん、困るなあ。いたずらしちゃ。」
え?なんで?トイレの扉が完全に閉まっていたのは確認した。夫さんからは私の行動は見えていないはずなのに・・・。びっくりして言葉が出ない娘さんにむかって夫さんはさらに言った。

625 : 本当にあった怖い名無し : 2012/06/09(土) 05:29:33.39 ID:vmhyuseI0

「C枝がさあ、トイレの中で教えてくれたんだよ。A子ちゃんがなんかやってますよーってね。」
奥さんの名前だ。いくら酔っていても夫さんはいつもはこんな冗談を言う人ではない。なんでこんな事を言うんだろう。なんでばれたんだろう・・・。
「トイレの奥の方にいるよ?聞いてきてみなって」
「トイレの・・・奥ですか?あ・・・・はい。」
楽しそうに話す夫さんの、その雰囲気を壊したくなかったということもあり、気が進まなかったがトイレに行ってみた。
奥さんがねぇ。まさかねぇ。などと思いつつひとつひとつは小さいが3つもある個室を手前から順にのぞいていく。
ひとつめ。ふたつめ。みっつめをのぞきこんだとき、娘さんは大声をあげ腰を抜かした。

626 : 本当にあった怖い名無し : 2012/06/09(土) 05:33:40.90 ID:AVKxX5cP0

みっつめの個室の中にいたのは夫さんが首を吊っている姿だった。
一番奥の個室の上には排気だかの太いダクトが通っており、そこに自分のベルトをひっかけて首を吊っていた。もう息はしていなさそうだ。
嘘だ、夫さんはさっき自分の席に戻ったはず・・・。
立たない足腰をなんとか引きずりながら店内に戻るともちろん夫さんの席には誰も座っていなかった。
「と、父さん、Bさん、Bさんは・・・・!!!」

「え?まだトイレから戻ってないだろ?心配して見に行ったんじゃないのかい?」

ほどなく家から遺書が見つかった。
これからC枝との思い出の場所をまわってみる。C枝ともしまたどこかで出会えたら、そこで、私も・・・。

627 : 本当にあった怖い名無し : 2012/06/09(土) 05:38:03.41 ID:9i1NylCW0

店で自殺があったとなれば客商売としてはつらい。でも夫妻の気持ちを考えると娘さんはそれだけでお店を閉めることには反対だった。
そんな娘さんに父さんは言った。
「いつからかはわからんが、奥さんはあそこにいるわけだ。もしかしたら、今となっては夫さんも・・・。」
父さんはお店をたたむことを決めた。

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