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「なんで***を*さんのだや」
その瞬間ガタンッ!とドアが暴れ、ドアが殴られたのだと分かった。
俺は何が起こっているのか分からず、しかしドアの前に「それ」が居るために外にも出られない。
「なんで***を*さんのだや!なんで***を*さんのだや!」
扉の向こうで興奮した罵声が何度も上がり、その度にドアが割れんばかりに殴られる。
もの凄い音でドアが殴りつけられているのに、両親のどちらも起きてこないことが恐ろしかった。
音はやがてドスン!ドスン!と身体ごとぶつけるような音に変わり、そしていきなりそれは止んだ。
ピタッと、冗談のように。
しばらくすると来た時と同じようにどしんどしんと足音を立てて階段を降りて行くのが分かった。
そうしてようやく、俺はわんわん泣いた。その後熱を出して寝込むくらい泣いた。
朝っぱらからどうしたのかと、ノックの後に母が扉を開けて部屋の中を窺ってきた。
するとその間を縫ってザザが部屋に入り込み、身を摺り寄せてきた。
それに酷く安堵したことを、今でも強く覚えている。
630 猫の親子 sage 2008/09/01(月) 16:47:30 ID:ErGPIwA40
その月の終わりを待たずに、俺と母は婆ちゃんの住む母方の実家へ引っ越した。
婆ちゃんは健在で、俺の両親が離婚することに対しては言葉を濁しながらも賛成だったようだ。
「やっと別れた」とすら言っていた。
これはその婆ちゃんからの口から聞いた話だが、当時、俺の父親は叔父に変わり家業を継ぐ筈だった。
叔父は関東の大学を出た秀才で、向こうで会社勤めの経験があるらしかった。
それに対し、父は名古屋の某三流大学でキャンパスライフを楽しみ、その先で母と出会い結婚、
突如就職すると言い出し家族中で揉め、結局独り身の叔父が呼び戻され家督を継いだらしい。
母は農家の嫁になるつもりはなかったが、そんな騒動になっていたとは知らずに田舎に越した。
俺を産んだ際、命名を祖父にしてもらう予定だったが頑なに突っぱねられ、父に理由を問いただして
知ったらしい。婆ちゃんもその時電話でこの話を聞かされ、以来母と俺を案じていたそうだ。
そしてあの恐怖の朝のことを話した時、婆ちゃんは神妙な顔で教えてくれた。
「ジジはうちの家から連れて行った子でね、あんたが赤ん坊の時から引っ付いて離れなかった。
母親だろうが近づくと威嚇してね。きっとザザとゾゾにもよく言い聞かせてたんだね。
あんたは小さいから、良くないモノに恨まれ易いんだよ。」
今にして思えば、我が家で怒鳴り散らしていたのは叔父の生霊のようなものだったのでしょうか。
声がよく似ていたし、父の実家で体験した異様な様子を鑑みればそう思えてなりません。
ただ、猫が3匹とも居た時はひどく遠いもののように感じていたし、
俺が最後に出くわした出来事も、ザザが追い払ってくれたと思えました。
そしてそのザザも、越してすぐに姿を消し、戻ってきませんでした。