師匠シリーズ
怪物 「承」

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723 師匠コピペ5 sage New! 2008/07/12(土) 19:41:58 ID:cjpOxm/s0
815 名前:怪物   ◆oJUBn2VTGE [ウニ] 投稿日:2008/07/10(木) 21:13:56 ID:lK8rj6z40
どこが担当なのか分からないので、代表番号に掛けて内容を告げる。内線でお繋ぎ
します、という言葉のあと、保留音をたっぷり聞かされてからようやく電話の相手
が出た。聞きたいことを単刀直入に話す。苛立ったような声が返ってきた。
「あのですね。今、市内でそんな公共工事はやっていません。じゃあ民間企業の騒
 音公害だって言われても、それがどこでやってるのかもわからないじゃ、注意の
 しようもないでしょう? 朝からなんなんですかいったい」
聞きもしないことまで返ってきた。そして電話は切られる。思わず時計を見るが、
12時を回っている。ということは、朝から、とは別の人からの電話のことらしい。
それも1件や2件ではなさそうだ。
分かったことは、市内の恐らく複数の場所で工事をするような音が聞こえていると
いうこと。しかもどこで行われているのか誰にも分からない工事が。
いったい、これはなんだ?
なにかが私たちの周囲で起こりつつあるのに、それがなんなのか未だに分からない。
ただすべてが見えない糸で繋がっていることだけは分かる。
鳴かないスズメ。思い出せない怖い夢。落ちてくる石。引き抜かれる並木。音だけ
の工事。街中で起こった奇妙な出来事。
表面の手触りに騙されてはいけない。本質から眼を逸らしてはいけない。
公衆電話の前で私の心は静かになっていった。
廊下へ向けて歩き出す。
あいつはいるだろうか。
会わなくてはいけない。そして聞かなくては。
すれ違う女子学生たちと、私は同じ服を着ている。彼女たちは教材を抱いている。も
たれるように笑いあっている。パンと牛乳を持って歩いている。私は教室へ急い
でいる。けれどそこには明らかな断絶がある。それは私自身が一方的に作ってしま
った断絶なのかも知れない。でもその断絶を心地よく感じている自分がいる。
同じ噂を聞いているのに、私だけは日常から足を踏み外している。

724 師匠コピペ6 sage New! 2008/07/12(土) 19:42:52 ID:cjpOxm/s0

816 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/07/10(木) 21:16:38 ID:lK8rj6z40
探ろうとしているのだ。
次に起こることを。そしてどう備えるべきかを。
自嘲気味に笑った瞬間を廊下の向こうから来た女子に見られ、変な顔をされる。見
たことがある子だ。同じ1年生だろうか。また怖がられるな。
案外とウジウジしたことを考えている自分に気づき、軽く頬を張る。
その教室についた時、廊下側の窓際でお喋りをしている数人の女子がいた。
中の一人に遠目から話しかける。
「石川さん、あいつ、今日来てる?」
その子はこちらをチラリと見て人差し指を教室に向ける。私は「ありがとう」と言
って、教室のドアに手をかけた。
自分のクラスではないが、このところココへ来ることが増えつつある気がする。
教室の中はどこにでもあるようなざわざわとした空気が満ちていたが、明らかに異
質な雰囲気が隅の方の一角から漂っている。説明しがたいが、眼に見えない透明な
泡がその辺りを覆っているような感じがする。
このクラスの連中はみんなこれに気づいているのだろうか。
その泡の中心に氷で出来たような笑みを表情に張り付かせた短い髪の女が座ってい
る。
間崎京子という名前だ。
教室に入ってきた私に気づいたのか、周囲にいた数人の子に何事かを告げて席から
離れさせたようだ。
取り巻きができつつあるというのは本当らしい。この油断ならない女のどこにそん
な魅力があるのか分からない。
「聞きたいことがある。ちょっと出られるか」
なにか意地の悪い軽口でも出そうな気配だったが、意外にも彼女は頷いただけで立
ち上がった。

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