厳選怖い話
踏み入れるべきではない場所

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死んじゃったの?

ううん、それが何も起こらないで普通に帰ってきたんだよ。
でもじぃちゃんはもうそれからオバケが怖くなって、友達と肝試しに行くのを一切やめたんだ。
その友達はその後も何度も何度も肝試しといってはありがたい神社に忍び込んだり
お墓をうろうろしたりお地蔵さんにイタズラしたり色々するようになってね。
周りの人からは呆れられて相手にされなくなっていったよ。
人の気をひくために「天狗を見た」なんていうようになってしまった。
じぃちゃんに「見てろ、噂を広めてやる」なんて言って、笑っていたよ。

そして、ある日ふっと居なくなったんだ。
じぃちゃんもみんなと色々と探したんだよ。
そしたら…
山の中の高い木のふもとで、友達は死んでた。
木の幹には足掛けに削った後がてんてんと付いていてね。
友達は自分で木に上って、足を滑らせて落ちたんだ。ばかなやつだよ。

坊、世の中には人が入ってはいけない場所っていうのがあるんだ。
それは怖い場所だ。
坊だったらタンスの上もその場所だよ。
落ちるのは怖いだろ。そういうことだよ。
じぃちゃんの友達には、怖い場所が見分けられなかったんだ。

怖いね。ばちがあたったのかな。

いいや、怖いのはここからさ。
友達が死んでから、村の中のひとたちが次々に「天狗を見た」って言い出したんだ。
じぃちゃんは「あれは友達のでまかせだ」と言ったんだけどね。
友達が天狗の怒りに触れた、祟りだ、呪いだ、と皆は自分達でどんどん不安をあおっていった。
夜通しで見張りの火まで焚いたんだ。
皆が顔をあわせるたびに天狗の話をするので、村の中がじめじめしていた。

そんな時に限って具合が悪くてね、村の中でケガをするのが4件続いたんだよ。
どうってこともないねんざまで数に数えられてね。どう見てもあれは皆おかしくなってた。
さらに噂に尾ひれがついて、「天狗に生贄を出さなくては皆殺される」とまで酷い話になっていた。

そしてついに、本当に生贄を出そうという話をするようになったんだ。
友達が死んだのは木から足を滑らせて落ちたからなのに、完全に天狗のせいになってた。
村の中の皆も、人が入ってはいけないところに踏み入ろうとしていた。
それはね、人の命だよ。 誰にもそれを奪う権利なんてないだろうに。
じぃちゃんはね、天狗よりも村の中の皆がすごく怖かったんだよ。

だからね、じぃちゃんは、その村から逃げてきたんだ…

じぃちゃんのこの話は、その後もねだって2度程聞かせてもらいましたが「絶対に内緒だぞ」と言われ、両親の居るところでは決して話しませんでした。
でも、今でも私の家には父方の実家はありません。
農家の次男のじぃちゃんが、庄屋の娘のばぁちゃんと駆け落ちしてきたからだよと、私の両親からはそう聞いています。

じぃちゃんが私に自作の怖い話を聞かせてくれたのかとも思いましたが、多分違います。
その長い話が終わった時、じぃちゃんは大粒の涙をぼとぼと、私の小さな手の甲に落としたのですから。

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