厳選怖い話
ヒサユキ

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170 本当にあった怖い名無し sage 2009/08/17(月) 18:39:33 ID:awDBDn0q0

まるで何かを迎えるように、彼らは入口の前に整列する。
そして、そこに姿を現したのは他ならぬ彼女だった。
だが、少しく様子が変しい。
ぢっと目を凝らしていた私は、小さく声を漏らしてしまった。
彼女の口からは鮮血が流れ出し、両手や着衣には得体の知れない赤黒いものがこびり付いていたからである。
何事か呟くように唇は動いているものの、目の焦点は最早合っていない。
私が目を離せないでいると、彼らは言葉も無く示し合わせたかのように、彼女を連れて山を降りて行ってしまった。
私はどうすることも出来ない。
蝉の声が煩い。

研究所に戻った私を待っていたのは、あの冷泉中尉であった。
彼は研究所前の門で独り立っていた。
恐らく顔面蒼白だったろう私は、一礼して彼の横を通り過ぎようとする。
その時、彼は通り過ぎざまに言ったのだ。
この研究も佳境に来ているので、暫くは彼女と会うのは慎んで欲しい、と。
実際のところ、私はそうせざるを得なかった。
何故なら、これ以降、私は研究室から出るのにも相応の理由が必要となり、これは体の良い軟禁状態だったからだ。
だが、一日の内の数十分ではあったが、私と彼女は会うことが出来た。
あの神社での一件を問い質す事には気が引けたものの、そんな事を忘れさせてくれる様な事が起こったのである。
彼女が私の子を宿したのである。
私達は自分が子供になったみたくはしゃいで、この子の名前を考えた。
そして、二人の名前から一字ずつ取って、男の子だったらこの名前にしようと決めたのだ。
「久幸」と。

172 本当にあった怖い名無し sage 2009/08/17(月) 18:40:27 ID:awDBDn0q0

この後の事は余り語りたくない。
だが、一言で述べるならば、私と彼女の日々は壊れてしまった。
いや、壊れてしまったのは私と彼女の方なのかも知れない。
とにかく、その夜、私は罵倒と悲鳴で目を覚ました。
私は暗闇でそのままぢっとしている。
何か物が壊れる音が研究所中から聞こえる。
それは高い/低い/鈍い/鋭い/乾いた/湿った在りと在る破壊音だった。
どれだけ経っただろうか、唐突に音が止む。
油に火を入れると、それを明かりに廊下へと出た。
そこには何人もの研究所職員が倒れていた。
慌てて駆け寄ろうとして、気付く。
彼らには全て、何処か部品が足りなかった。
それは手であったり、足であったり、頭であったりした。
腹を裂かれて内臓が零れ出している者は、それを掻き入れようと必死である。
私は何度も吐きながら、何も吐くものが無くなった頃に、漸く研究所の入口に辿り着いた。
そこに滴り落ちている鮮血は、所々が途切れながらも、あの山の深くへと連なっている。

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