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占い・おまじない、呪い 洒落怖

千寿江

もういろいろ済んだから、書かせてくれ。
かなり長い。

父親には妹がいたらしい。俺にとっては叔母にあたるが、
叔母は生まれて数ヶ月で突然死んだ。原因不明。
待望の娘が死んでしまい、婆さんは大層落ち込んでいた。
見兼ねた爺さんが婆さんにフランス人形を買い与えると、
婆さんはそのフランス人形に叔母と同じ名前の「千寿江」と名付けて可愛がった。
毎日撫で、傍に置き、綺麗にしてやり、共に寝たそうだ。

それが変わったのが、俺の妹が生まれてから。
女が生まれて、婆さんは酷く喜んでた。
両親共働きだったし、代わりに婆さんが妹を大層可愛がって育てた。俺も可愛がられたけどな。
それで、今まで大切にされていた千鶴江の定位置は、婆さんの枕元でなく、仏間になった。
誰もいない仏壇だけがある仏間だ。
俺はよく先祖へ挨拶しろと、
夕飯前に御神酒を上げにそこへ
行かされていたもんだ。
暗くてくそ寒い、不気味な部屋

654 2/10 sage New! 2013/11/24(日) 23:43:28.58 ID:zUKnxq1Si
小学校高学年の時、いつも通り御神酒を上げに仏間に入り、仏壇に手を合わせた。
その時、誰かが後ろに立っているような気がしたんだ。
振り返ると何もない、いつも通り、ピンクのドレスの千寿江がいるだけだ。
それがその時は妙に怖かったのと、多感な時期だったのもあって、思わず
「なんだよ、文句あるのかよ。かかってこいよ」
と、千寿江を挑発した。馬鹿だよな。
居間に戻って家族に「千寿江に睨まれた!」と報告すると婆さんが激怒してな…。
後にも先にも婆さんがあんなに怒った事はない。
怒る婆さんに合わせるように父親も激怒、ゲンコツをくらった。俺涙目。
その時は謝ってそれで終わり。

655 3/10 sage New! 2013/11/24(日) 23:44:22.76 ID:zUKnxq1Si
問題が起きたのは数日後だった。
休みの日だったか、まだ明るい時で仏間もいやに明るかった。
昨晩、下げ忘れた御神酒を下げに仏間に入ると、千寿江が定位置にいない。
いつも置いてある棚から落ちて、畳へ。手首が外れていた。
正直、俺に何かするために這い出して動かしたのかと…。
びびって走って家族の居る居間にいると、婆さんがいて、
怒られるかもとは思ったが、本気で怖かったかは婆さんに報告。
俺の尋常じゃない様子に婆さんも心配になったのか、一緒に居間にきてくれた。
そしたら千寿江は、今度はちゃんと定位置にいた。手首もついてる。
俺が嘘を吐いた感じになってしまったが弁明している時に親父がきて、
「あ、悪い。それ俺が落とした。トイレ行ってから直したんだよ」
って。犯人親父かよ!
勘違いして半泣きになってる俺を親父が爆笑して、婆さんも今度は俺を慰めて、事なきを得た。

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意味が分かると怖い話

しゃべる人形

俺には5歳の息子がいる。
ただ、その子は病気で口がきけない。
病気と言っても、幼稚園でのケンカが原因の心因性のもので、本当は言葉をしゃべれるはずなんだ。
まあ、それでも本人がしゃべれないと思っているんだから仕方ない。
息子の心の傷が癒えるまで、のんびりと付き合っていこう。

勿論、黙って見てるわけじゃない。
動物となら口を効けないかと犬を飼ってみたり、最悪の事態に備えて手話を習わせたり……
とにかくやれることはやった。でも、息子はしゃべってくれない。
つられて口を開いてしまわないかと、四六時中勝手にしゃべる人形を買って来てみた。
流行りのアニメに登場するロボットだったからか、息子は箱を開ける前から興味津津だった。
息子が見守る中、箱から人形を取り出し、電池を入れてやる。
しゃべりだすロボットに驚く息子。
しかしすぐに喜び、前から家にあった怪獣人形と戦わせたりして、それはもう楽しそうに遊んでいた。
……やはり、しゃべってはくれなかったが。

口をきかない息子を、俺は少しさびしげに見ていた。
ひょっとすると、このときの顔を見られていたのかもしれない。

「お……とさ……」
数日後、子ども部屋に入ってきた俺を出迎えたのは、頑張って声を出そうとする息子の姿だった。
驚きながらも俺は駆け寄る。
「しゃべれるのか……!?」
息子はたどたどしくも、「お父さんにもう迷惑をかけたくないから」と語った。
俺は感動して息子を抱きしめる。
「偉い、偉いぞ……」
涙声で言うと、息子もつられたように泣き出した。
「でも、僕だけじゃダメだったよ……」
涙交じりに、息子は手で部屋の一方を指した。
そこには、あのロボットが転がっていた。
「あのロボットが、僕に力をくれたんだ……」
「そうか……買ってきて、良かった……」

静まりかえった子ども部屋に、俺と息子の慟哭がいつまでも響いていた。

●解説
ロボットは電池を入れたらしゃべる。
苦悩してる父のため、自分も話せるようになりたい。
じゃあ、電池を食べれば自分も……
と考えたんじゃないかな。
心因性のものらしいし、治るきっかけになったけど……みたいな。

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師匠シリーズ

黒い手

53 黒い手  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2006/10/15(日) 20:49:55 ID:lY9MF+tv0
その噂をはじめに聞いたのは、ネット上だったと思う。
地元系のフォーラムに出入りしていると、虚々実々の噂話をたくさん頭に叩きこまれる。どれもこれもくだらない。
その中に埋もれて、「黒い手」の噂はあった。

黒い手に出会えたら願いがかなう
そのためには黒い手を1週間持っていないといけない
たとえどんなことがあっても

「バッカじゃないの」
上記の噂を話したところの、ある人の評である。
オカルト道の師匠にそんなあっさり言われると、がっかりする。
「まあ不幸の手紙の亜種だな。どんなことがあっても、って念押ししてるってことは、1週間のあいだになにか起こりますよってことだろ」
チェーンメールが流行りはじめた頃だったが、「××しないと不幸になる」
というテンプレートなものとは少し毛色が違う気がして僕の印象に残っていたのだが、師匠はこういうのはあまり好きではないようだった。
しかし、しばらくのあいだ僕の頭の片隅に「黒い手」という単語がこびり
ついていた。
ありがちなチェーンメールと一線を画すのは、そのスタート契機だ。
「このメールを読んだら」
ではなく、
「黒い手に出会えたら」
つまり、話を聞いた時点で強制的にルールの遵守を求められるのではなく、契機が別に設定されているのだ。
怖がろうにも、その契機に会えない。
「黒い手に出会えたら」
僕は出会いたかった。

54 黒い手  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2006/10/15(日) 20:53:18 ID:lY9MF+tv0
黒い手を手に入れた。
という一文をあるスレッドで見たとき、僕の心は逸った。
普段はいかない部屋に出入りしていたのは、「地元の噂」を語る場所だったから。「黒い手」の噂を聞けるかも知れないという可能性のためだ。
マニアックなオカルト系フォーラムにどっぷり浸っていた僕には、少し程度が低すぎる気がして敬遠していたのだが・・・・・・
「見せて見せて」
というレスがつき、しばらくして「いーよ」という返事があった。
その音響というハンドルネームの人物は、何度かオフ会を仕切ってるような行動派らしく、「じゃ、明日の土曜日にいつものトコで」という書き込みで
「黒い手オフ」が決定した。
新参者の僕は慌てて過去ログを読み返し、いつものトコが市内のファミレスであることを確認すると「初めてですけど行ってもいいですか」と書き込んだ。
当日は、まだこういうオフ会というものにあまり慣れていないせいもあって緊張した。
遅れてしまってダッシュで店内に入ると、目印だという黒系の帽子で統一された一団が奥のスペースに陣取っていた。
「ちーす」という挨拶に「すみません」と返して席につくと、テーブルの周囲に居並ぶ面々に対して妙な気まずさを感じた。
ネット上の書き込みを見ていた時から想像はついていたが、やはり若い。
たぶん全員中学生から高校生くらいだろう。僕もついこのあいだまで高校生だったとはいえ、1コ下2コ下となると別の生き物のような気がする。
先輩風を吹かしたりというのは苦手なので、ここでは年上だとバレないようにしようと心に決めた。
「で、これなんだけど」
そう言って全身黒でキメた16,7と思しき女の子が、足元から箱のようなものを出してきてテーブルに乗せた。

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師匠シリーズ

田舎

326 田舎 中編  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/23(木) 00:32:44 ID:pA3eqjtb0
そもそもの始まりは、大学1回生の秋に実に半端な長さの試験休みなるものがぽっこり出現したことによる。
その休みに、随分久しかった母方の田舎への帰省旅行を思いついたのだが、それがどういうわけか師匠、CoCoさん、京介さんという3人の先輩を引き連れての道ゆきとなってしまった。
楽しみではあったが、そこはかとない不安がどんよりと道の先にあるのを俺は見て見ぬ振りをしていたのだった。

駅まで迎えに来てくれた伯父の車は7人乗りだったが、助手席に伯父の家で飼っている柴犬が丸まって寝ていたので京介さんとCoCoさん、俺と師匠という並びでそれぞれ中部座席、後部座席に収まっていた。
俺としては、その柴犬がまだ生きていたことにまず驚いた。
耳の形に見覚えのある特徴があったので、その子供かと思ったのだが「リュウ」本人なのだという。20歳は確実に超えているはずだ。伯父にリュウの歳を聞くと、「忘れた」と言って笑うだけだった。
「こいつはドライブが好きでなあ、昔ゃよう連れてったもんじゃけんど、最近は全 然出たがらんなっちょったがよ。今日は珍しい」
京介さんが頷きながら手を伸ばし、前の座席で寝そべっているリュウのお尻のあたりを撫でる。リュウはちらっとだけ視線を向けて、また静かに目を閉じた。
車は快調に国道をとばしていた。
山間の道をひたすらに東へ進む。右手に川が現れて、ゴツゴツした巨大な岩が視界に入ってはすぐに後方へ飛び去っていった。

329 田舎 中編  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/08/23(木) 00:34:41 ID:pA3eqjtb0
「なんちゃあないろう」
何もないところだろう。
そういう伯父の言葉には変に飾ったところも、卑屈なところもなく、気持ちが良かった。
CoCoさんが土地のことなどあれこれを聞き、京介さんもいつになく口が滑らかだった。
伯父が言った冗談に師匠がやたらウケて笑い声をあげ、その余韻で楽しそうに隣の俺の肩を叩きながら顔を寄せて、表情とまったく違う冷めた調子で「ところで」と言った。
「僕が今見ているものを、伝えてもいいか」
俺にしか聞こえないくらいの小さな囁き声に、いきなり冷水をかけられたような気分になった。
日差しの強かったはずの窓の外が急に暗くなり、国道のすぐ横を流れている川は闇に消えるように水面も見えなくなった。
そしてあたりから音が消え、車のフロントガラスの向こうには黒い霧が渦を巻いている。
やがて川沿いのガードレールのあたりに、凍りついたような青白い人の顔がいくつも並びはじめた。
暗くて首から下は見えない。顔だけがのっぺりと浮かび上がっている。男の顔もあれば女の顔もある。それも、大人が道路ぶちに立っているような高さのものもあれば、その半分の高さのもの、はるか見上げるような位置にあるもの、地面に落ちているもの、様々な顔が、しかしどれも無表情でこちらを見ているのだった。
そして無表情のまま、その顔たちはそれぞれ口を微かに開いている。
音もなく車の窓ガラス越しに視界は走り、手を伸ばせば届きそうな距離に、暗闇に浮かぶ顔がまるで上下にうねる様な連続体となって見えた。それぞれの口の形は、連続することによっていくつかの単語を脳裏に強制的に想起させようとしていた。

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師匠シリーズ

人形

209 人形  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/02/12(火) 00:13:49 ID:FukvotX90
人形にまつわる話をしよう。

大学2回生の春だった。
当時出入りしていた地元のオカルト系フォーラムの常連に、みかっちさんという女性がいた。楽しいというか騒がしい人で、オフ会ではいつも中心になってはしゃいでいたのであるが、その彼女がある時、こう言うのである。
「今さ、友だちとグループ展やってるんだけど見に来ない?」
大学の先輩でもある彼女は(キャンパスで会ったことはほとんどないが)美術コースだということで絵を描くのは知っていたが、まだ作品を見せてもらったことはない。
「いいですねえ」
と言いながら、ふと周囲のざわめきが気になった。居酒屋オフ会の真っ只中に、どうして俺だけを誘ってきたのか。確かによくオフでも会うが、それほど彼女自身と親しいわけでもない。フォーラムの常連グループの末席に加えてもらっているので、自然に会う機会が増えるという程度だ。
なにか裏があるに違いないと、嗅ぎつける。
追求するとあっさりゲロった。
「gekoちゃんの彼氏を連れてきて」と言うのだ。
gekoちゃんとはその常連グループの中でも大ボス的存在であり、その異様な勘の良さで一目置かれている女性だった。その彼氏というのは俺のオカルト道の師匠でもある変人で、そのフォーラムには「レベルが違う」とばかりに鼻で笑うのみで参加をしたことはなかった。もっとも彼はパソコンなど持っていなかったのであるが。
その師匠を連れてきてとは一体どういう魂胆なのか。
「いやあ、そのグループ展さあ、5日間の契約で場所借りてて今日で3日目だったんだけど……なんか変なんだよね」

210 人形  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/02/12(火) 00:15:41 ID:FukvotX90
聞くところによると、絵画作品を並べているギャラリーで誰もいないはずの場所から誰かのうめき声が聞こえたり、見物客の気分が急に悪くなったりするのだそうだ。
「昨日なんてさ、終わって片付けして掃除してたらさ、床に長くて黒い髪の毛がやたら落ちてんの。お客さんっていっても、わたしの友だちとかばっかだし、たいていみんな髪染めてんのよ。先生とかオッサン連中はそんな髪長くないしね。気味悪くてさあ」
みかっちさんは演技過剰な怖がり方で、肩を抱えてみせた。
「こういう時頼りになるgekoちゃん、この間からなんか実家に帰ってていないし。キョースケは東京に出て行っちゃったし」
肘をついてブツブツと言う。
「というワケで、噂のgekoちゃんの彼氏しかいないワケよ」
みかっちさんは師匠と直接会ったことはないようだが、やはり噂は漏れ聞いているみたいだ。どんな噂かはさだかではないが。
「とにかくコレ、案内状。明日来てよね。私、明日は朝から昼まで当番だから、昼前に来て」
ずいぶん強引だ。「明日は平日なんですけど」と言うと、めったに講義出ないんでしょと小突かれた。

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師匠シリーズ

古い家

244 師匠コピペ1 sage 2008/06/29(日) 12:30:32 ID:vtxXJwJU0
534 古い家   ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2008/06/29(日) 00:01:09 ID:quV+YcYD0
聞いた話である。

「面白い話を仕入れたよ」
師匠は声を顰めてそう言った。
僕のオカルト道の師匠だ。面白い話、などというものは額面どおり受け取ってはな
らない。
「県境の町に、古い商家の跡があってね。廃墟同然だけど、まだ建物は残ってるん
 だ。誰が所有してるのかわからないけど、取り壊しもせずに放置されてる。誰も
 住んでいないはずのその家から夜中、この世のものとは思えない呻き声が聞こえ
 るっていう噂が立ってね。怖がって地元の人は誰も近寄らない。どう、興味ある?」
大学2回生の夏だった。
興味があるのないのというハナシではない。ただその時の僕は、(ああ、今回は遠
出か)と思っただけだ。
その夏は、1年前の夏と同様にいやそれ以上に、怖いもの、恐ろしいものにむやみ
やたらと近づく毎日だった。
その日常はなだらかに下る斜面の様に狂っていた。普通の人には触れられない奇怪
な世界を垣間見て、恐ろしい思いをするたびに、目に見えない鍵を渡されたような
気がした。その鍵は一体どんな扉を開けるものなのかも分からない。使うべき時も
分からないまま、鍵だけが溜まっていった。僕はそれを持て余して、ひたすら街を、
山を、森を、道を、そして人の作った暗闇をうろついた。その日々は頭のどこか大
事な部分を麻痺させて、正常と異常の境をあいまいにする。
どこか現実感のない、まるで水槽の中にいるような夏だった。

ゴトゴトと軽四の助手席で揺られ、僕は窓の向こうの景色を見ていた。
師匠の家を夕方に出発したのであるが、今はすっかり日が暮れ、そそり立つ山々が
黒い巨人のような影となって不気味な連なりを見せている。

245 師匠コピペ2 sage 2008/06/29(日) 12:31:33 ID:vtxXJwJU0

535 古い家   ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2008/06/29(日) 00:08:52 ID:9x5Yw4U+0
最後にコンビニを見てからどれくらいだろうか。
寂れた田舎の道は曲がりくねり、山あいの畑の向こう側に時々民家の明かりが見え
るだけで、あとは思い出したように現れる心細い街灯の光ばかりだ。
カーステレオはさっきから稲川順二の怪談話ばかりを囁いている。時々師匠がクス
リと笑う。僕はその横顔を見る。
ハンドルを握ったまま、ふいに師匠がこちらを向いて言った。
「こないだ、くだんを見たよ」
え? と聞き返したが彼女は繰り返してくれなかった。代わりにぷいと視線を逸ら
して、「やっぱ鈍感なやつには教えない」と言った。
なんだか釈然としない思いだけが残ったが、師匠の言動は解釈がつくものばかりで
はない。
気がつくと道が広くなり、山が少し遠くへ退いて見える。
道の傍の防災柱が目に入ると、時を置かずに農協の看板が現れた。ポツリポツリと
民家や、小さな公共施設が見え始める。
「この辺に停めよう」と言って、師匠は土建会社の資材置き場のようなスペースに
車を乗り入れて、エンジンを切った。
人気はまったくない。師匠はダッシュボードから懐中電灯を取り出して、手元を照
らす。手描きの地図のようだ。
「こっち」
バタンとドアを閉めながら師匠は歩き出した。僕は後ろをついていく。
死んだように静まりかえる古い田舎町の中を進むあいだ、動くものの影すら見なか
った。懐中電灯に照らし出された道には時々なにかの標語が書かれた看板が見え、
どこか遠くでギャアギャアと鳴く鳥の声ばかりが間を持たせるように聞こえて来る。
腕時計を見ると、まだ深夜12時にもなっていない。ここでは僕らが知るそれより
も夜が長いのだ、と感じた。