この怖い話は約 3 分で読めます。

 

俺は玄関を出た。
祖母は畑仕事に熱中していた。
そして家の庭には倉があった。
祖母が集めた魔除けグッズを保管している倉だった。
幸いなことに森の入り口と、それが一直線に見える畑の間に建っていて、
俺の姿を遮り、祖母は森へ立ち入った俺に気が付いていなかった。
俺は自宅から持ってきた重いリュックサックを背負って山道を歩いた。
夕方までには程遠く、逢魔時になる前には、家に戻ることができるはずだった――

小学生の時、日中に何度も遊んだことのあるB山は相変わらず、
木の葉が重なり合い、太陽の光を遮って僅かな木漏れ日を落としていた。
日が落ちれば静寂と闇が支配し、あらゆる気配を際立たせる。
三つの河川の堆積によりできた大規模な平野や、有数の山岳地帯がある地方の為、
高い位置まで上ると似たような山々や地形を眺めることができた。
俺は周囲を見回しながらそんなことを想起して、
セミの大合唱を鬱陶しく思いながらもしばらく歩きつづけた。

 

そして、一瞬目について、ふと、また気になった大木の前に俺は立った。
その木が俺の目的に見合ったものだと判断したからだ。
次にリュックを地面に降ろすと、中から数本の釘や金づち、
人型につくった粘土を取り出した。
俺の目的は呪いの実行だった。
今のご時世、大抵のことはググれば解決する世の中であるから、インターネットで情報を集めたのだ。
ターゲットはいわずもがな俺を虐めていたT、N、Uの三人だ。
俺はメモしていた手順を確認しながら準備を進めていった。
実行は真夜中だった。
だが、俺の選んだ方法は手間のかかるもので、暗闇の中作業をするのは効率が悪く、
明るいうちに済ませ、あとは人型の粘土に釘を打つだけ、にしておきたかった。
用意した紙片に三人の名前を書き、採取しておいた髪の毛
(うまくいかずTの髪の毛しか取れなかった)を粘土に仕込ませる。
指に付着した白い粉をズボンで拭きながら俺は淡々とこなしていった。
次に俺は木に近づいて釘が打ちやすいか試してみた。
少し力がいるが、容易に粘土を貫いて怨念と共に大木へとつなぎとめることだろう。
俺が眼間の木の幹から体を離した時、視界の異変を感じて固まった。
辺りが暗くなっている。
俺の背筋が凍った。

 

太陽はまだ高い位置にあったはずだった。
よほど葉の量が多く陽光を遮断しているのかとも思ったが、
上を見ればちゃんと隙間があり、薄暗い空には点々とした星がある。
先ほどまで響いていたセミの鳴き声もやんでいた。
携帯で時刻を確認すると十九時を回っていた。
森に入ったのが十四時くらいだった。すると五時間経過したことになる。
おかしすぎる。せいぜい数十分しか経っていないはずだ。俺は改めて周囲を覗う。
それは日も暮れて闇夜に移り変わる、れっきとした逢魔時であった。
俺は祖母の言っていたあの森は異界へ通じておる、
という言葉を思い起こしてゾッとした。
準備もある程度終えていたので、俺はそそくさと道具を片付けると、
リュックを背負った。
早く森を抜けなければならない、祖母の忠告を信じていなかった俺だったが、
いつの間にかそう思っていた。
真夜中にはまた訪れる場所だ。その時は逢魔時ではないし、
憎しみが恐怖を凌駕していたので、決行する決意は揺らいでいなかった。
俺の中で、だんだん祖母に怒られることに不安を覚え始めていたとき、
ふと声をかけられた。
ありえない出来事に俺は飛び上がりそうになった。

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bronco

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