この怖い話は約 3 分で読めます。

しばらくして見つけた穴倉に、俺たちは逃げ込んだ。
熊のものだろうか、広さは十分で深さも申し分ない。
俺たちは息を殺して体力回復に努めていると、ふいにUがいった。
「蹴り飛ばされるって結構痛いんだな」
俺はびっくりしたが「だろ」と返した。
「尻、腫れてるかも」
「擦り傷もいっぱいだ」
俺は自分の腕を見た。沈黙が続いたあと、Uが頬をかきながらいった。
「呪われて当然、だな」
俺は何もいわない。

「今更許してくれなんていわない。
でも本気でお前を嫌っていたわけじゃなかったんだ。遊び半分だった。
それに、お前が化け物を呼んだから冷静でいられたことはわかったけど
、だけど、お前も呪われていて、あの化け物に追われてる状況なのに、
堂々としてて俺を助けてくれた。こんなに勇気のある奴だって思わなかった。スゲェよ」
震えあがっていたUからは俺の姿がそう見えていたらしい。
事実冷静に捉えていたところもあったが、やはり恐怖に包まれて吐きそうな程だったのだが、
「……そうか」
と俺は呟いた。
俺の中の憎しみは完全に消えたわけではなかった。
だが、これまで協力して逃げてきた経緯と、呪いを犯した罪悪感とが積み重なって、
Uへの怒りは弱まっていた。

穴倉の外は、さっきまでクロボウに追われていた時の木々の騒々しさとはうって変わり、
闇に溶け込んむ静寂が満ちていた。
俺は続けた。
「呪いなんてするもんじゃないな。お前たちも人間だから、内心で俺が気にくわないこともいっぱいあったんだろう。こんなことに巻き込んだのは俺のせいだ。でもそれが俺を虐めた報いだと思ってほしい……死んだ奴には頭も上がらないけれど。ただ一生その罪は背負うと思う」
「あぁ、俺も身に染みたよ。怖さも痛みも――」
俺たちはそのあと特に言葉を交わさなかった。お互い疲れ果て、穴倉の外に気を配るのに精一杯だった。クロボウが跳ねてくる音を聞き取ろうとして数分後、俺たちは照明が切れたように眠りに落ちていた。
眼が覚めると、生暖かい空気が満ちていた。
俺は面前に箱が落ちているのが見えた。
そして、驚いたことに蓋が空いていた。
もう夜明けらしく、微かな太陽の光が木々の間隙をぬって、俺の目にあたった。
穴倉の外に、男が立っていた。
「呪いは解けた」
「え?」
俺は意味が飲みこめなかった。
「特別に真実を教えてやろう」

そういって男は一方的に説明を始めた。
「呪いを止める方法は、相手に対しての怨念を消すことだ。お前の怨念は髪の毛を通して、箱に力を与え、呪いを発生させた。
故にお前の怨念が消えれば、髪の毛から箱に流れる怨念も止まり、呪いが消滅する。私はお前たちの確執を拭いさる状況をつくっていたのだ。
だからあれを完全に消さずにお前たちを追わせた」
「じゃあ……」
俺ははっとして周囲を見回そうとした。
「奴はもういない。この次元にはな」
突如透き通るような声が降ってきた。
「どこにいっても、完全なものなんてないのね」
わたしが男の隣に立っていた。
そして穴倉に歩み寄ってしゃがむと、箱を掴んだ。
「渡したこの箱、わたし呪いは返してもらうわ。あげたつもりはないからね」
わたしは端正な顔で微笑んだ。
「もらったつもりもないよ。それにもういらない」
そのとき見えた彼女の腕に傷はなかった。
Uはまだ眠っていた。
彼女はいった。

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