この怖い話は約 3 分で読めます。

「これで最後になっちゃったのは残念だけど、あなた的に考えると命拾いしたのは運がよかったね。
あぁ、でも代償で寿命削れちゃうんだっけ」
「いいんだ。それが人を呪った代償だから」
「私に対してもな」男が抜かりなくいった。
「そうですね、助かりました」
すると、いつのまにか、わたしは消えていた。
俺はもう追われなくていい安心感に脱力して、大きく息を吐き吸い込んだ。
そのとき、焦げ臭いにおいが混じっていることに俺は目を見開いた。
慌てて穴倉から出ると、眼前に広がる木々が炎に包まれていた。
ついさっきまで何の異変もなかったはずだ。
なのに――ぱちぱちと音を立て、見慣れた植物が無残に焼かれていく。
男は燃え上がる様を見やりながらいった。
「ヘルハウンドか、そういえば奴も来ていたんだったな。どうやらここにある道を絶つつもりらしい。お前もさっさと退け。
奴の粛正に巻き込まれたくなければな。といってもお前は、時がくれば再びその姿を目にするだろうが。
では私も、帰還しよう」
男は俺の額に指を突いた。
次の瞬間、俺の身体から何かが抜き取られる感覚が走った。
やや間をおいて、俺が目をあけると男は忽然と消えていた。
何だかやるせなかったが、俺はUを抱えて森の外へ脱出した。
煙を避けながらで多少時間はかかったが、遠くで祖母の姿が見えて俺はほっと息をついた。

結局、黒衣の男の正体もわたしの素性も何もわからなかった。
ただ、俺が幼い頃から共にしてきたこの森には、確かにここではないどこか別の世界へ通じる道があったのだろう。
元気になった様子の祖母がこっちじゃ! と叫んでいるのが見えた。
森の前では消防車を呼ぶ声と群衆ができていた。
俺が祖母のところまで到着し、Uを横にさせる。
そして、これほど騒ぎになっているのにいびきをかいて眠りこけているUと、事情を問いつめずに俺の身を
心配してくれた祖母と共に、燃える山を見つめた。
「えらいことになった」と祖母。
「ごめん」
「会ったのじゃな、鬼に」
「たぶんそうだけど、全然想像してたのと違ったよ」
「鬼といっても伝説通りではない。B山に潜む鬼は別の世界から来た者じゃ」
「ばあちゃん、もしかして知っているの?」
俺は思わず声を荒げた。
「んや、詳しいことはわからぬ。だがそう確信できる。若かりし頃ワシは願ったのだ。だからアレが来た」
俺にはよく理解できなかった。

「でも、おかげで俺は少し頭が覚めたと思う」
祖母はうん、うんと頷いていた。
「……あの魔法陣じゃが」
「あ、ごめん、勝手に」
倉に描いた魔法陣をそのままにしてあったことを俺は思いだした。
「いいんじゃ、あれは役にたったか?」
俺はしばし考え、あごをひいた。
「でもあの本……って」
「あぁ確か、西洋を旅するのが好きじゃった父親からの土産物だったかの。ワシも恥ずかしながら、借りて読んでおったわ。
少し頼りない土産だと思ったが意外に役にたつ。だが、お前がこんなことになるのなら、もっと早くに教えておけばよかったなぁ、すまん」
俺は今でもこの祖母の言葉を覚えている。
もしかしたら祖母は、あの黒衣の男が何者であるのかも含め、全て知っているのではないかと思ったが、聞かないようにした。
(その後事情があって、男の正体や道、化け物とわたしについての見当はついたが、
祖母が亡くなったあとだったこともあり、真相はわからない。そして祖母のいった、こんなことになるのならの意味が
代償についてだったのだとしたら、人を呪った俺にとっては適切な報いだと思っている)

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bronco

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