この怖い話は約 4 分で読めます。

「なんだよそれテメェ! だから冷静にいられたんだな!」
Uはドスの利いた声をあげた。俺の頬に鈍痛が走った。
Uの拳はなおも飛んできた。俺は血の混じった唾を吐いた。
俺も口を開いた。
「でも俺が呪う理由をつくったのはお前たちだろ! これでおあいこだ! それに俺も呪われたんだ」
Uは舌打ちして、その場にへたり込んだ。
「俺はまだ死にたくない」
「俺だって」
「おいひらめいたぞ」
俺は首をもたげた。男は人差し指をたてていた。
「……本当に成功するんですよね」
「誤算はない」
「……一人事とか、やめろよな」俺はため息をついた。「……そうだな」

俺はしょんべんといって、男を連れ、Uの呑気だな、との嫌味を背中で受け止めながら、茂みの奥へいった。
「で、方法っていうのは?」
「お前たちだけで、あれから逃げるのだ」
「あの化け物から?!」
「その通りだ」
「そんなことしたって呪いが解かれないじゃないですか」
「解くことはできる、うまくことが運べばな」
「その間に何かしてくれるんですね」
俺は男の真意を汲み取った気がして少し音量が上がった。
「いや。私は少し休む」
「っ!?」
「迷っている時間はないぞ」
と、男の指差す先に、クロボウが迫っていた。
Uの叫び声が上がった。俺はUのところへ駆けより、共に走り出した。

「くそっどうしろってんだ」
俺とUは後ろを垣間見つつ逃走する。
Uが先頭を切り、一歩遅れて俺が続く。
後ろから恐怖の圧迫感に押され、俺は無我夢中だった。
クロボウは身体を曲げながら跳ねてくる。
飛躍力がだんだん上がっているように思われた。
Uが茂みに飛び込んだ。俺はその反対の茂みに飛び込んだ。
がくがくと震えながら顔を上げると、茂みを壁として見た葉っぱの隙間から、クロボウが跳ねていくのが垣間見えた。
Uの方にも俺の方にもこなかった。
ただまっすぐに進んでいっただけだった。
俺とUは立ち上がって、クロボウが跳ね去っていった方向を見据える。
「何とか撒けたのか」
Uが呟いた瞬間だった。
Uのずっと後方から瞬間移動したように、クロボウが猛スピードで跳ねてきた。
女々しい声をあげて、俺たちは茂みをかき分けながら走った。
俺は何度も転びそうになった。
突き出た枝や大きな石、捨てられたゴミなど足をとられるものはそこかしこにあった。
案の定、Uが何かに引っかかったらしく、横転した。
「うぬぬうぬぬぬんうぬんぬ」
と狂ったようなうめきをあげたクロボウは容赦なく迫ってくる。
俺は一度止まった足を再度動かそうとした。Uを見捨てようとしたのだ
今思えばよくUのために一度でも足を止められたものだと感心する。

その僅かな逡巡の最中、
俺の視界に黒衣の男の姿が見えた。
森林に立ち尽くす男はただならぬオーラを発していた。
俺は男の力を借りようと思った。
何故、Uを助けようと思ったのかはわからない。
ただ咄嗟に身体が動いたのだ。
クロボウとの距離はまだ開いている。俺は男に見えるようにUの前に進み出た。
「おい!」
Uが手を伸ばしてきた。
進行方向にUの手が現れて、気が動転する最中、
俺にとってそれは確実に邪魔なものだった。
俺はUの手を押しのけた。
その時、クロボウから腕のような触手が伸びた。
それはUの手のあった場所を滑空して、再び主の体躯へ戻る。
Uは俺が突き飛ばしたことで尻餅をつき、クロボウの手から逃れる形になった。
俺はただ男に助けてくれと合図しようと思っただけだった。しかしUはそれをクロボウから助けた行為だと捉えたらしい。
「すまん。助かった」
とUは息も絶え絶えにいった。
すると、クロボウの眼間に木が一本倒れ込んだ。
枯れた樹ではなくさっきまで地に根を張っていた頑丈な樹だ。
男の力だ、と思った。俺はUの手を掴んで走り出した。

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