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熱が出て、僕は二日間横になったままだった。夢と現実の境目がよく分からなかった。色々なものが嵐のように駆け抜けて行った。
ぬるくなった額の濡れタオルを時々誰かが換えてくれた。それはおばさんだったような気もするし、ヨッちゃんだったような気もする。咳はあんまり出なかった。ただ鼻水がやたらに出た。鼻紙をそこら中に散らかして僕はふうふう言い続けた。
ようやく熱が引いた三日目の朝、目を覚ました僕の隣にシゲちゃんが座っていた。
「もうほとんど平熱じゃ」
と言って僕からタオルを取り上げる。横になったまま文句を言う僕と何度か軽口を応酬し、それからすっと黙った。
外は良い天気のようだ。考えると、この村にいる間、雨なんかほとんど降っていない。ふと畑の野菜は大丈夫だろうかと思った。

772 先生  後編 ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/09/04(金) 23:01:33 ID:4o0HgrnU0
やがてシゲちゃんは決心したように閉じていた口を開く。そして、あの顔を変えたのは自分だと言った。僕は知ってたよと言う。驚いた顔。
すべては先生の推理の通りだった。失敗にもへこたれないシゲちゃんがあんなにも元気がなかったのは自分のせいで友だちに大怪我をさせてしまったからだ。
だけど僕も知らなかったことが一つ。シゲちゃんは事件の翌日、顔入道の上に貼ったもう一つの顔を剥がした後で、一人で隣町の病院まで歩いて行ったのだそうだ。タロちゃんへのお見舞いだ。
病室のベッドでぐったりしていたタロちゃんは、もちろんシゲちゃんの仕業だってことをもう分かっていて、それでも怒りもせず変に照れくさそうな顔をして苦笑いを浮かべた。
腰を抜かして逃げ出したなんてこと、恥ずかしいから誰にも言わないでくれと、そう言って頭を掻くのだった。
だからシゲちゃんは大人に何を聞かれても黙って怒られているんだ。僕はシゲちゃんがもっと怒られるのが怖くて自分の仕業だということを隠しているんだと思っていた。
潔く責任を取ることが親分のあるべき姿だと思って失望をしかけていたのに、シゲちゃんはタロちゃんの心情を考えて最初からすべてを飲み込んでいたのだ。
やっぱりシゲちゃんは立派な親分だった。イタズラ好きさえなければ、だけど。
「先生ってな誰のことじゃ」
突然シゲちゃんがそう言った。僕がうわごとで口にしたらしい。しまった、と思った。なにを口走ったんだろう。そう言えば、熱を出してる時に先生に会ったような気がする。
ここにいるはずがないのに。でもここにいるつもりになって先生に話し掛けてしまったのかも知れない。
ああ。すべてに知恵が回るシゲちゃんのことだ。へたな言い逃れは余計なやっかいを生むかもしれない。
僕は観念して、鎮守の森の向こうの集落のこと、そして夏休み学校のことを話した。自分でももう、コソコソするのは潮時のような気がしていた。
話している内に、気分が晴れやかになっていくことに気づいた。

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