Categories: 師匠シリーズ

怪物 「結」

この怖い話は約 4 分で読めます。

70 師匠コピペ5 sage 2008/10/27(月) 10:20:03 ID:SNTEH34B0
271 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 01:58:10 ID:ScuN9+/G0
案の定、ケンカになった。毎週金曜日に会う約束をしていたのに、これで2週連続
私からドタキャンしてしまった。だからと言って別に浮気をしているワケではない。
止むに止まれぬ事情があるのだから。逆に私へのあてつけのように、今夜は女を買
うなどと口にしたことの方がよほど許せない。
「死ね」と言って電話を切った。
電話ボックスを出たときは頭に血が上り冷静さを欠いていたが、しばらく自転車を
漕いでいると次第に我に返ってくる。
いけない。方向が違う。
自転車のカゴから地図を取り出して確認する。この辺りはまだ青のエリアだ。ハン
ドルを切って方向を修正した。
立ち漕ぎで先を急ぐ。
景色がヒュンヒュンと過ぎ去っていく。
その中へ溶けていくように、涙がひと筋だけ流れて消えていった。
ホントに、私はなにをやっているのだろう。
駄目だ。このところ、心と身体のバランスを崩している。ちょっとしたことで落ち
込んだり、悩んだり。今もこんな訳の分からないことでいつの間にか必死になって
いる。いったい私はどうしてしまったのか。
『あなた、ちょっと変わったね』と昨日の夜先輩は言った。高校に入ってから私は
変わり始めてしまったらしい。何故なのだろう。
剣道部を続けていた方が良かったかも知れない。
そう思いながら自転車を漕ぎ続ける。
気がつくと私は赤のエリアに入っていた。そしてその最深部までは目と鼻の先だっ
た。
ただのありふれた住宅街だ。今はなんの不吉な印象も受けない。なのに緊張してし
まうのは頭で考えてしまうからなのだろう。
三差路の角を曲がったとき、私は心臓が止まるほど驚いた。
コンクリート塀に電信柱が無造作に立てかけられている。元あったと思しき場所に
は穴が開いていて、そこからまるで力任せに引き抜かれたかのような痕跡が地面の
ひび割れとなって現れていた。電線の角度が変わって片方はピンと張り、もう片方
はたわんでブラブラと揺れている。

71 師匠コピペ6 sage 2008/10/27(月) 10:23:17 ID:SNTEH34B0

273 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 02:01:27 ID:ScuN9+/G0
まるで子どもがおもちゃの箱庭で遊んでいるような現実離れした光景だった。
目に見えない巨大な手が空から降ってくるような錯覚を覚えて私は思わず身体を仰
け反らせる。
聞き集めた怪現象の中にこんなものがあったはずだ。でもこれは多分別件だろう。
全く誰もこの異変に気づいた様子はない。誰かにここでこうしているのを見られた
らと思うと煩わしくなり、すぐに自転車を発進させた。
高野志穂の家はそこから5分と掛からなかった。
わりと新しい住宅が並んでいる一角の、青い屋根が印象的なこじんまりとした家だ
った。
家の前に自転車をとめて私は腕時計を見る。
彼女はバレー部の練習に行くと言っていたので、まだ部活から帰っていない時間の
はずだ。
深呼吸をしてから呼び鈴を押す。
インターフォンから「はあい」という声がして、暫し待つと玄関のドアが開いた。
高野志穂に良く似た小柄な女性が顔を覗かせる。母親らしい。
「あら。どなた」
そう言いながらドアを開け放ち、こちらに歩み寄ってくる。
内側にチェーンは…………ない。
目線の動きを悟られないように素早く確認した後、私は出来る限りのよそいきの声
を出した。
「志穂さんはいらっしゃいますか」
「あら、お友だち? 珍しいわねぇ。でもゴメンなさい。まだ帰ってないのよ。
 ……どうしましょう。ウチに上がって待ってくださる? 散らかってるけど」
「いえ、いいんです。ちょっと近く来たので寄っただけですから。また来ます」
そう言って私は頭を下げ、申し訳なさそうな母親にヘタクソな笑顔を向けて自転車
に跨った。
「さようなら」
家を辞する挨拶として、適当だったのか分からない。ああいうときはなんと言うの
だろう。お休みなさい、かな。でも少し時間帯が早いか。

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