Categories: 師匠シリーズ

怪物 「結」

この怖い話は約 4 分で読めます。

100 師匠コピペ34 sage 2008/10/27(月) 11:37:06 ID:IsGl4y7f0

354 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 23:21:38 ID:ScuN9+/G0
警戒せよ。警戒せよ。この異物を、警戒せよ。
そう言っていたような気がする。
「エエエエエエエ……」
そんな力ない呻きが、ありえないほど小さな人間の顔から漏れる。赤ん坊のような
その顔の下には、薄汚れた羽毛に包まれたカラスの雛の胴体がくっ付いている。
それは生きていること自体が耐えられない苦痛であるかのように小さな身体をくね
らせて、レンガの上を這いずっている。
それを見下ろしている誰もが息を呑み、動けないでいた。
掠れながら呻き声は続く。私の知るそれより、はるかに小さい赤ん坊の顔は、閉じ
られた目から涙を流しながらクシャクシャと歪んで小刻みに震えている。
やがてその呻き声が少しずつ変調し、聞こえる部分と聞こえない部分が生まれ始める。
「こ、これは、おい、なんだ、これは……」
眼鏡の男が口を押さえて震えている。
「黙りなさい」
その隣でおばさんが短く、しかし強い口調で言う。
風が吹いて頭上の葉がざわめいた。声が聞こえなくなり、私たちは自然と顔を近づ
ける。
「…………か…………い…………に……………」
赤ん坊の頭部を持つそれは、呻きながら同じ言葉を繰り返し始めた。
なんと言っている? 耳を澄ますけれど、目に見えない誰かの手がその耳を塞ごう
としている。いや、その手は私の中の危険を察知する敏感な部分から、伸びている
のかも知れない。
でももう遅い。聞こえる。
か・わ・い・そ・う・に。
そう言っているのが、聞こえる。
涙を流し、苦痛に身を悶えさせながらそれは、かわいそうに、かわいそうに、とい
う言葉を繰り返しているのだ。
「くだん、だ」
眼鏡の男が呆然として呟いた。

101 師匠コピペ35 sage 2008/10/27(月) 11:39:29 ID:IsGl4y7f0

357 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/08/03(日) 23:25:32 ID:ScuN9+/G0
くだん? くだんというのは確か、人の顔と牛の身体を持つ化け物のことだ。生ま
れてすぐに災いに関する予言を残して死んでしまうという話を聞いたことがある。
人の頭部と、動物の胴体を持っている部分だけしか合っていない。そう言えば最近、
身体が2種類以上の動物で構成された化け物のことを考えたことがあるな。あれは
なんのことだったか。はるか昔のことのように思える。そうだ。あれは間崎京子の
謎掛けだ。共通点はなに? 化け物を生んだのは誰?
思考がぐるぐると回る。
「なにか来る!」
キャップ女の鋭い声に振り向くと、黒い塊がこちらに向かって飛び込んで来た。
一番後ろで屈んでいた青い眼の少女が弾けるようにそれを避け、勢い余って尻餅を
つく。
私を含む他の4人も瞬時に身体を反転させて、その体当たりから身をかわす。
黒い塊は荒い息遣いを撒き散らしながら、歯茎を見せて私たちを威嚇するように唸
り声を上げる。
犬だ。首輪もしていない。野犬だ。
目は血走って、焦点が合っていないように見える。
地面に手をついていた私はすぐに立ち上がり、犬から離れる。他の人たちも後ずさ
りしながら木の下から遠ざかる。おばさんが尻餅をついてまま動けないでいる少女
を抱き起こしながら慌てて逃げ出す。
犬は、離れていく人間には興味を示さずに、舌を垂らしながら木の根元の暗がりへ
首を伸ばした。
そして、ぐるるるる、という唸り声と、肉が咀嚼される気持ちの悪い音が聞こえて
来る。
「く、喰ってる」
10メートル以上離れた場所から、腰の引けた状態の眼鏡の男が絶句する。
もうその木の下からは人の声は聞こえない。ただ肉と骨が噛み砕かれる音だけが夜
陰に篭ったように響いているだけだ。
私はどうしようもなく気分が悪くなり、そちらを正視できないほどの悪寒に全身が
震え始めた。

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