この怖い話は約 4 分で読めます。

699 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 22:26:28 ID:NrJoj9WI0

聞き出せたのはそこまでだった。
礼を言って、教室の前から立ち去る。
彼女はきっとこれから昼ごはんを一緒に食べる仲間たちと私の噂話をするのだろう。
なんか、気持ち悪いよね。占いとかしてる人って。
石川さんも占いばかりしていた中学時代の私に、後ろ指をさしていた一人だったは
ずだ。胸の中に渦巻く怒りと微かな棘の痛みが私の心を揺さぶり、平常な精神でい
られなくした。
私は教室に戻らず、昼ごはんも食べないまま校舎裏の秘密の場所で時間が過ぎるの
を待った。
結局数行読んだだけで捨てたあのラブレターには校内で見かけたという私の容姿の
ことばかり並んでいた。差出人もこんな私の本性を知れば出すのを止めただろうか。
煙草の吸殻が何本足元に落ちても、誰も来なかった。風が遠くの喧騒を運んで来る。
すこしずつ、身体の中に硬い殻が形成されるようなイメージ。誰も傷つけない。誰か
らも傷つけられない。
空は高かったけれど、まがい物のような青だった。

4日後、あの日早退して以来休んでいた高野志穂がようやく登校してきた。青白い
顔をして、緊張気味に唇を固く引き結んだまま誰とも挨拶を交わそうとしない。気
がついていなかっただけで、あるいは彼女はいつもそうだったのかも知れない。
周りのクラスメートたちは、遠巻きに、そして腫れ物に触るように接していた。彼
女たちにとって、島崎いずみと高野志穂は区別のない同じ存在なのだろう。
島崎いずみはまだ学校に来ない。退院したという噂は聞いたが、今も家に閉じこもっ
ているのだろうか。

700 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 22:28:29 ID:NrJoj9WI0

学校はまったく自殺未遂のことに触れようとしない。私たちがしている噂話を漏れ
聞いていないはずはないのに。あるいは学校との関わりが確認されない限り、無視
を決め込んでいるのかも知れない。
けれど私はどうしてもこのままにはしておけなかった。高野志穂に話しかけたくて
うずうずしていた。
その気持ちを見透かされたのか、ヨーコが眉を寄せて私を見る。
「ちょっとちひろ。なんか嗅ぎまわってるみたいだけど、やめときなよ。こんなこ
 とに関わらない方がいいよ」
面と向かってそう言われると、確かにそうだという良識が私の中で頷く。
この数日で、かなりのことが分かっていた。同じ中学で、二人とも苛めを受けてい
たこと。そして今の学校での、そしてクラスでの立場。これ以上何を知っても不快
なだけだ。私自身クラスで浮いている身であり、その私がなにか出来ることなどな
いし、なにより面倒くさい、どうでもいいという投げやりな気持ちの方が強かった。
休み時間にも俯いて机の上に広げたノートをじっと見ている高野志穂の姿に、好奇
心以外の気持ちが湧かない自分に気づく。彼女はしきりに顔の絆創膏を気にして触
っている。このあいだよりまた増えていた。
その様子を見ていて、オリンピック精神という言葉が一瞬頭をよぎる。
これだけは意味が分からない。この一連の出来事にそぐわない響きだ。間崎京子は
一体なにを思ってそんなことを言ったのか。あれから何度かあの教室を覗いたが、
彼女はすでに早退した後か休みかのどちらかで、結局会えなかった。もともと休み
がちだったというが、これはどういうことなのか。透けるような色白で、スラリと
伸びた細すぎる身体に病弱そうな雰囲気は感じ取ったが……
ともあれ、オリンピック精神と聞けば「参加することに意義がある」とかいう陳腐
なフレーズしか浮かばない。それが自殺未遂にどう繋がるのだろう。

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