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687 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 21:51:30 ID:NrJoj9WI0

笑い声。朝の挨拶。下駄箱を閉開する音。無数の音の中で、廊下から囁く声など聞
こえるはずはなかった。
私は昇降口のざわめきの中で一人、立ち尽くしていた。

「ちひろ~? どうしたの。気分悪いの」
その日の休み時間、浮かない顔をしていた私にヨーコが話かけてきた。奥という苗
字だったが、彼女には奥ゆかしさというものはない。席が近いこともあって、入学
初日からまるで旧来の友人のように私に近づいてきた子だった。はじめはその馴れ
馴れしさに戸惑ったが、元来友だちを作るのが苦手なタイプの私が、新しいクラスで
の生活ですぐに話し相手得られたのは有り難かった。
「ねえ、どったの」
椅子の背中に顎を乗せて、体を前後に揺すっている。椅子の足がそれに合わせてカ
コカコと音を立てる。
「うるさい。それやめて」
そう言うと、「うわ。ご機嫌斜め」と嬉しそうな顔をして椅子を止める。
「腹減った」
思わず出てしまった言葉に、ヨーコは頷く。「やっぱりそれか。大食いのくせに低
血圧のお寝坊さんなんて、不幸よね」
べつに寝坊してるワケじゃない。というようなことを言おうとして、ふと思い出し
た別のことを口にした。
「背が高いショートの人、知ってる?」
たぶん3年生だと思うんだけど。と言いながら、朝の昇降口で見た切れ長の目やそ
の整った顔つきの説明をなるべく正確に伝える。するとヨーコは少し考えたあと、
「それって、間崎さんじゃないかな」と言った。

688 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 21:55:31 ID:NrJoj9WI0

「へえ、有名なんだ」
「有名ってわけじゃないと思うけど。同じ1年だし、見たことくらいあるよ。ホラ、
 A組の」
「え? 同い年なのか」
少し驚いた。
「その間崎さんがどうしたの。告られたとか?」
朝のことを説明しようとして、やめた。めんどくさい。
「でも、間崎さんってなんか気持ち悪いらしいよ。良く知らないけど、呪いとかか
 けちゃうんだって」
ドキッとする。私も中学時代に、趣味の占いを学校でもやっていたらそんな噂を立
てられたことがあった。高校では少し大人しくしておこうと、学校には今のところ
趣味を持ち込んでいない。
「呪い、ね」
教室を何気なく見回した。
その時、遠くの席に座る子と目が合った。地味な目鼻立ちに小柄な体。髪型こそ違
うが、どこか似ている子が二人、顔を寄せ合ってこちらを見ている。
私の視線に気づいたヨーコもそちらを見る。
二人はハッとした表情を一瞬見せたあと、怯えたように目を伏せた。
なんだろう。
まだ会話もしたことがない子たちだ。名前も出てこない。クラスの中でも一番印象
が薄いかも知れない。
「ちひろ。怖がらせちゃダメよ」
ヨーコが楽しそうに言う。
あなた見た目怖いんだから。

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