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706 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 22:45:24 ID:NrJoj9WI0

誰もいないその場所に着いて、私は高野志穂を壁側に立たせた。
今は遠くのざわめきも聞こえない。校舎の壁に反射して、陽射しが目に痛い。白く
輝きながら、夏がもうそこまで来ている。
「怖がらずに答えて欲しい」
高野志穂は生唾を飲みながら、それでもコクコクと頷く。その目は正体なく泳いでいる。
「島崎さんが自殺しようとした理由を知ってるな」
頷く。
「そのことで、彼女は間崎京子の所へ相談に行ったな」
頷く。
「占ってもらった結果を知って、ショックを受けた彼女は思い余って手首を切った」
頷く。
「その絆創膏の下は、バレー部の練習でついた傷じゃないな」
頷く。
「島崎さんとあなた。二人とも誰かに恐喝されていたな」
……頷く。
「かなりの額のお金を脅し取られていたな」
頷く。
「他の人に言えば、もっと怖い人から酷い目に遭わされると?」
頷く。頷く。
「恐喝していたのは、こいつだな」
ヨーコが悲鳴をあげた。
私が強い力で腕を引っ張ったからだ。
「ちょ、ちょっと、なに言うのよ、ちひろ。痛い。痛いって」

707 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 22:49:04 ID:NrJoj9WI0

わめくヨーコの目の前で高野志穂は今にも倒れそうな顔つきをしながら、しかし
歯を食いしばるように必死で頷いていた。
私は冷たい心臓が送り出す血が、体内でチロチロと低温の火を点しているようなイ
メージを抱きながら、言葉を続けた。
「あなたたちが私の方を怯えたような目で見ていたのは、いつも隣にいたこいつを
 恐れていたからだったんだな」
またヨーコが悲鳴をあげる。暴れる腕を遠慮ない力で捻りあげた。
「私はあなたたちが想像したような人間じゃないから安心しろ。こいつを今こうし
 ているのが証拠だ。だから答えてくれ。いつからだ。どうしてこいつに?」
高野志穂は震えながらもやがてボソリ、ボソリと語り始めた。
自分と島崎さんは奥さんと同じ小学校だった。その頃、二人は奥さんとそのグルー
プから酷い苛めを受けていた。中学校に上がって、奥さんとは別の学校になれたが、
やっぱりそこでも別の人たちから苛めを受けた。もう、この輪から抜け出すには自
分が変わるしかないと思った。高校に上ったら運動部に入って、引っ込み思案な自
分の殻を破りたい。そう思っていた。しかしその生まれ変わる場所のであるはずの
高校には、あの奥さんがいた。あの頃の乱暴なだけの少女とは少し違う、狡猾な顔で。
小学校の頃に命令されるままにやった窃盗のことをバラすなどと理不尽なことで脅
され、お金を要求された。自分も島崎さんも、抵抗する気さえ起きなかった。明るい、
にこやかな表情で、自分たちの腹や背中を殴り、蹴りつける彼女に冷酷で無慈悲な
悪魔をダブらせた。バレー部に入った私には、傷が目立たないだろうと顔まで殴った。
おかげで顔から絆創膏がな取れるとはなかった。奥さんは、私だからまだいいんだ、
と言った。私の友だちがキレたら、おまえら「売り」をさせられるよ、と言った。
その友だちは他校の不良とつるんで、そんなことばかりしている本物の怖い人だと。

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