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709 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 22:52:13 ID:NrJoj9WI0

「ウソよ、ウソ。あんたなにウソ言ってんのよ。謝りなさいよ。ふざけんなよ」
わめくヨーコを壁に押し付け、耳元に顔を寄せた。
「おい。私が不良だのなんだのと、噂を流したのはおまえ自身だな。私がそんな噂
 にいちいち弁解して回らないタイプの人間だと判断した上で。あの二人の様子に
 私が不審を抱いた途端に、そんな噂があるとバラして、恐喝の秘密から遠ざける
 …… ずいぶんと知恵が回るじゃないか。でもな、ずっと学校を休んでいた子が、
 バレー部の練習にも出てないのに絆創膏が増えてたってのはいただけないな。お
 まえらしくないミスだ」
学校を休んでいる間にも呼び出し、口止めを図っていたのだろう。
私に動きを封じられたままヨーコは、ガチガチと歯を鳴らして涙を浮かべている。
なによ。なによ。
私を憎しみのこもった目で睨みつけながら、そんな言葉を口の中で繰り返している。
「金がそんなに欲しかったのか。ブランドものの服を買って、好きなものを食って。
 それが他人を踏みつけて得た金でも、なにも感じないのか」
ぺっと、唾が頬に飛んできた。
目をつぶり、開けた瞬間、己の中の冷たい怒りの炎がいつの間にか暗く悲しい色に
変わっていることに気づいた。
「友だちだと、思っていたんだ、陽子」
ゆっくりと、それだけを言うと私は彼女の頬を思い切り打った。
その勢いで身体を強く壁にうち、ヨーコは崩れ落ちた。
嗚咽が、丸めたその背中から漏れる。

710 :天使   ◆oJUBn2VTGE :2008/04/30(水) 22:55:22 ID:NrJoj9WI0

「落ち着いたら、高野さんに謝るんだ。それから島崎さんにも謝りに行こう。私も
 ついていくから。それが済んだら……絶交だ」
ヨーコの背中にそんな言葉を投げかけ、高野志穂には「もう教室に戻りな」と言っ
た。
それから私は二人を残して駆け出し、校舎の中に入った。一直線に間崎京子の教室
へ向かう。廊下でスレ違う平和ボケしたような女子生徒の顔がやけにイラつく。
「どけ」
そんな言葉を吐くと、相手は怯えたように道をあける。自分は今どんな顔をしてい
るのだろう。
閉まっていたドアを乱暴に開けると、教室の中からハッと驚いたような気配が返っ
て来た。
かまわずに、間崎京子の元へ歩み寄る。
彼女は席に座ったまま肘をついた両手の指を絡ませ、まるで来ることを知っていたか
のように平然と私を見上げながら薄っすらと微笑みを浮かべている。
「島崎いずみを脅していた相手を知っていたな」
答えない。
「事件のことで石川さんにカマをかけられた時、おまえはこう言ったな。”オリンピ
 ック・スピリッツ”と」
“オリンピック精神”と、又聞きで伝えられた私にはその意味が分からなかった。し
かしそう言い換えた石川さんは責められない。そちらの方が確かに馴染みのある言
葉だからだ。ただ”オリンピック・スピリッツ”には同じ響きで、もう一つ別の意味が
あった。この事件の真相を言い当てる意味が。

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