この怖い話は約 3 分で読めます。

喫茶店で軽食をとりながら30分ほど待ったところで、みかっちさんがやってきた。
「ごめーん、遅くなったあ」などと軽い調子で席に着き、さっきの師匠の失言などまるで気にしてない様子だった。

232 人形  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/02/12(火) 00:37:01 ID:FukvotX90
みかっちさんはホットサンドを注文してから、さっそく本題に入る。
「あの絵の人形って、高校時代の友だちの持ち物なんだけど、なんか死んだおばあちゃんがくれた凄い古いヤツなんだって」
その友だちは礼子ちゃんといって今でも良く一緒に遊ぶ仲なのだそうだが、最近少し様子がおかしかったと言う。
ある時彼女の家に遊びに行くと、「なんかわかんないけど江戸時代くらいの和服の女の人が何人かいて、真ん中の人がその人形を抱いて座ってる写真」を見せられたそうで、自分はその人形を抱いている女性の生まれ変わりなのだと言い出したらしい。聞き流していると怒り出し、その人形が家にあると言ってどこからか引っ張り出してきて、それを抱きしめながら「ねっ?」と言うのだ。写真の女性と似てるとも思えなかったし、どう言っていいのかわからなかったが、そんな話自体は嫌いではないのでそういうことにしてあげた。それにそんな古い写真と人形が共にまだ現存していたことに妙な感動を覚えて、「絵に描きたい」と頼んだのだそうだ。
「その絵があれか」
師匠がなにごとか気づいたように片方の眉を上げる。なにかわかったのかと次の言葉を待ったが、なにもなかった。
みかっちさんはコーヒーにシュガースティックを流し込みながら、珍しく強張った表情を浮かべた。
「でね、それから何日か経って、あ、今から3週間くらい前なんだけど、その礼子ちゃんとか高校時代の友だち4人で温泉旅行したんだけど」
少し言葉を切る。その口元が微かに震えている。

235 人形  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/02/12(火) 00:39:01 ID:FukvotX90
「電車に乗ってさ、最初四人掛けの席が空いてなくて二人席にわたしと礼子ちゃんとで座ってたんだ。ずっとおしゃべりしてたんだけど、1時間くらいしてからなんか、持ってくるって言ってた本の話になってさ。礼子ちゃんがバッグをゴソゴソやってて、あっ間違えた、って言うのよ。なに~? 別の本持って来ちゃったの? って聞いたらさ」
唾を、飲み込んでから続ける。
「ズルッて、バッグからあの人形が出てきて、『本と間違えちゃった』って……」
俺はそれを聞いてさっきのギャラリーでは感じられなかった、鳥肌が立つような感覚を覚えた。
「別に頭がおかしい子じゃないのよ。その旅行でもそれ以外は普通だったし。ただ、なんなんだろ、あれ。人形って魂が宿るとかいうけど」
それに憑りつかれたような……
みかっちさんが続けなかった言葉の先を頭の中で補完しながら、俺は師匠を見た。
腕組みをして真剣に聞いているように見える。やがておもむろに口を開く。
「その人形を描いた絵が、さっきのグループ展での不思議な出来事の元凶ということか」
「だよね、どうかんがえても」
みかっちさんは、どうしよ、と呟いた。
「絵を処分しても解決したことにはならないな。勘だけど、その人形自体をなんとかしないと、まずいことになりそうな気がする」
師匠は身を乗り出して、続けた。
「その子の家にはお邪魔できる?」
「うん。電話してみる」
みかっちさんは席を立った。
やがて戻って来ると、「今からでも来ていいって」と告げた。

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