Categories: 洒落怖

親子

この怖い話は約 3 分で読めます。

そのうち母と娘は手をとって浮き輪を持って海に向かって行った。
砂浜には中年の男一人になった。

俺は波間で戯れる母娘を見ながら妙な思いが突然浮かんできた。
そして日差しの強烈な海辺にかかわらず寒気がして鳥肌がたった。
「はっ もしかしたらこの男・・・ひょっとして死んだ旦那じゃあ?・・・」
俺は恐る恐る横の男を見た。

男もこっちを見ていた。
「うっ」俺は思わず声が出た。
男はくわえタバコをしている。
そしてタバコをくわえたまま砂浜を四つんばいで俺に近づいてきた。

523 E島③ sage New! 2009/09/02(水) 23:55:58 ID:jvXfgGTC0
「うわっ 来るな やめてくれ」
俺は心の中で念じた。胸がバクバクする。
でも近づいてくる・・・。
俺の目の前まで来て男は言った。
「すみません。火、貸してもらえますか?」

俺はマジマジと男を見た。
幽霊でも何でもない。ただのおっさんだった。

ジッポで火を点けてやった。
そして俺は恐怖から解放された反動か妙に饒舌になりその男と他愛もない世間話をした。

しばらくしてその男が言った。
「でも、こうやって一人で海でゆっくりするっていいもんですね」
「そうですね・・・でもそちらさんはご家族連れでうらやましいですよ。僕なんか一人もいいけどたまには友達と海でワイワイやりたいですね」
社交辞令で俺は返した。

その言葉の後、男はしばらくジーっと俺の顔を見ていた。
カーって眼を見開いていた。俺はその顔にギョッとした。
そして男は重々しくこう言った。
「・・・家族連れってどういうことですか・・・何かの嫌味ですかね・・・
女房と娘はもういません・・・4年前の丁度この日に他界したんですけどね・・・」

524 E島④ sage New! 2009/09/02(水) 23:59:33 ID:jvXfgGTC0
「は?だって・・・さっきまで横に・・・」
と言いかけて俺はハッとした。
男の尻の下にあった三人くらいのスペースに広げていたマットがなくなっている。
男は地べたの砂浜に座っている。
バッグやポーチとかもなくなっている。
パラソルもない。

男はジーっと俺を見ている。
俺はあわてて海にいるであろう母娘の姿を追った。
家族連れがたくさんいるので見つけにくい。
しばらくさがし続けた。
・・・でもその母娘を見つけることはできなかった。

俺は隣の男のほうを見た。
いない・・・帰ったのか。
男が去った砂浜にタバコの吸殻が突き刺してあった。

あの母娘は幽霊だったのか?
いやそんなことはない。

俺ははっきりあの二人の会話を聞いた。
そもそもこの世の中の幽霊なんているはずないじゃないか・・・。
そのまま俺はビールの酔いと思考回路めぐらせた疲れかそのまま浜辺で眠りに落ちた。

525 E島⑤完 sage New! 2009/09/03(木) 00:01:05 ID:jvXfgGTC0
それから1週間、あの家族が気になってしょうがなく図書館に行き4年前のその日付の新聞をあさった。
気にし過ぎかもしれないが何かそれっぽい記事が出てたらちょっとびっくりするな。例えば母娘が交通事故とか海でおぼれたとか出てたら凄い話なんだけどな・・・。

Page: 1 2 3

bronco

Share
Published by
bronco

Recent Posts

迷い

霊とかとは全然関係ない話なんだ…

4年 ago

血雪

全国的にずいぶん雪がふったね。…

4年 ago

母親の影

私が小6の時の夏休み、薄暗い明…

4年 ago

閉じ込められる

彼はエレベーターの管理、修理を…

4年 ago

彼女からの電話

もう4年くらい経つのかな・・・…

4年 ago

テープレコーダー

ある男が一人で登山に出かけたま…

4年 ago