Categories: 洒落怖

徘徊するモノ

この怖い話は約 3 分で読めます。

次の日の昼、引越し先近くの駅で集合し、四人で引っ越し先まで向かった。
一ヶ月の滞在ということだったので、いたって普通の安アパートの一室で、引越し当日こそ何も感じなかった
部屋であったが、三人が同じ奇妙な体験をしたこともあり、何もあるはずがない と思えるわけもなく、
部屋に入ると、薄気味悪く、何か不穏な空気が漂っているように感じた。
しかし部屋に特筆するほど変わった部分があるわけでもなかった。

なあ、この箪笥、Aが運んだの? とBが部屋の片隅にある箪笥を触りながら何気なくAに尋ねた。
Aはその箪笥を運んで来た覚えがなく、そもそもこんな大きいもの、持ってきたっけ?という話になった。
すると引越し主が、そのタンスはもともとあったやつだと、と言った。
もったいないからそのまま使ってくれ、と大家が言ってきたそうだ。
箪笥はいかにも箪笥らしい、普通の箪笥で、中に何か物が入っているわけでもなかった。
やはり見渡す限り部屋には何も奇妙な点はなく、やることもないので、引越し主は、荷物の細かい整理を始めた。

806 3/4 sage New! 2011/06/05(日) 13:27:10.51 ID:By72cZiA0
向かいの壁に背をつけるほど離れて箪笥を見ると、ちょうど箪笥の上端、奥の壁に、木の枠のようなものが見えた。
つま先を伸ばし、背伸びして見ると、押入れや窓の枠のような、木でできた枠線がはっきりと見えた。
箪笥の奥に何かあるんじゃないのか?と思った俺は、三人を呼んで、重い箪笥を横にどかした。
箪笥の裏には、木の扉でできた小型の押入れがあった。
なんでこれを隠すように箪笥を設置していたのかと考えると、ゾーっと背筋が寒くなり、
ただ呆然と押入れを眺める四人の間には、嫌な雰囲気が漂った。

居ても立ってもいられなくなった友人の一人が、扉に手をかけた。
おい、と静止しようとしたが、友人は構わず勢いよく扉を開けた。

うわっ!!と友人は叫び声をあげ、何かに驚き尻餅をついた。
どうしたんだと思い押入れの中を見ると、暗い空間の中に、人形がポツンと座っていた。
いたって普通の人形であったが、三人の霊的現象の媒体だと考えるには、十二分に相応しい雰囲気を醸していた。
人形には触りたくもなかったが、しようもないので、とにかく人形を持って不動産屋に事情を聞きに行くことにした。

駅まで歩いて電車に乗り、一駅先の不動産屋に着いた。
事情を話し、人形を見せて尋ねると、不動産屋は心当たりがあったようで、話をしてくれた。
なんでもこの人形は、あの部屋に以前住んでいた母子の家庭の、女の子が持っていたものだったそうだ。
忘れて置いていってしまったんだね、と大家は寂しそうに言った。

807 4/4 sage New! 2011/06/05(日) 13:28:20.67 ID:By72cZiA0
その家族は、実はこのアパートに戻ってくる予定だったそうだ。
女の子が重い病気を患ってしまい、長く入院をする必要があり
入院先の大学病院に近い場所へ一時的に住むことにし、引越しをしたそうだ。
しかし数ヵ月後に母親が訪れ、「もう部屋は必要なくなったので・・・」と話をしたそうだ。
大家は深く理由を尋ねなかったが、おそらく女の子の手術に失敗したのでは、と思ったそうだ。
そのしばらく後に、知り合いが入居してきたようであった。

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