Categories: 洒落怖

雨乞い師

この怖い話は約 3 分で読めます。

236 234 sage 2010/02/06(土) 05:32:08 ID:WOtrqvdH0

 目の前で反り返った二本の指を見て、Tが絶望的な悲鳴をあげる。
「ぃぃぃぃぃぃ」
「おい、折れかかっているぞ」
 そう言うと、Tの口の中に指を突っ込み、歯茎ごと引っこ抜く勢いで奥歯を一本抜き取った。
「おや、ひとつ間違えた。ひひひひひひ」
 今度は掌ごと口の中に突っ込み、
「面倒だ、まとめて引っこ抜くか」
 と顎ごと引っこ抜こうと力を入れる。
 気を失いかけていたTが新たな激痛に身をよじる。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 その時
 タン、ベチャ
 雨乞い師の力が緩んだのに気づいたTが見ると、雨乞い師の脇腹が大きくえぐれて血を吹き出していた。
「あ?」
 タン、ベチャ
 今度は右太ももが破裂し、血肉を飛び散らせた。
 雨乞い師の手から力が抜け、Tは小島の上に放り出された。
「貴様らぁぁぁぁぁ」
 咆吼する雨乞い師が周囲を見渡す。その顔が、
 タン
 破裂して頭蓋骨をへばり付けた頭皮がべろりと右側に垂れ下がった。
 さすがに力を失った雨乞い師が石碑から落ちる。
 Tが周囲を見渡すと、ため池を取り囲むようにたいまつの群れがあった。その中には銃口から煙を出す猟銃を構えている人影もあった。
 何艘もの小舟が小島に取り付き、鎌や鍬、日本刀を持った村人たちが乗り込んできた。
「往生せい、往生せい、往生せい」
 そう言いながら村人たちは手にした得物を雨乞い師に振り下ろした。

237 234 sage 2010/02/06(土) 05:33:37 ID:WOtrqvdH0

 驚くべきことに、雨乞い師はまだその動きを止めてはおらず、振り下ろされた鎌や鍬を掴み取ろうとしている。
「指、指、細く(こまく)、細く」
 ぐっちゃ、ぐっちゃ、聞くに堪えない音が続くなか、Tは意識を失った。

 翌日手術が終わって祖母から聞いた、昔話の続き。
 村の窮地を救った雨乞い師は、そのまま村に居続けた。
 米を食らい、牛を殺し、女を掠った。
 あまりに狼藉が続き、日照り以上に疲弊した村人たちはある決心をした。
 その日、村人たちは雨乞い師を庄屋の家に招きいれ、大いにもてなし、酒を飲ませた。
 泥酔して寝込んだその隙を狙って、心得のある者が匕首で雨乞い師の首を落とした。
 これで全て終わったと思ったその瞬間。
 雨乞い師の眼がカッと開き、視線の先にいた庄屋に飛びかかり、喉を噛み切って殺してしまった。
 その後はひどい有様だったという。正体をなくし数に任せて斬りかかる村人たちと、すでにこの世の者ではない雨乞い師。
 結局何人も死者を出しながら雨乞い師を解体した村人たちは、雨乞い師の肉片をまとめて壺に入れ、塚を作った上で水を流し込んでため池にした。
 しかしそれだけでは収まらなかった。
 六十年後、そんな事も忘れかけていた夏の夜、雨乞い師は再び姿を現した。今度はひたすら復讐のために。
 以後、六十年周期で現れる雨乞い師を、村人たちはその都度解体し、再び封じ込めたのだった。
 そして今年がその六十年周期の年だった。
 しかしここまで話を聞いて、Tは疑問に思ったという。
 雨乞い師を最初に殺害した理由だ。
 本当に雨乞い師の狼藉が原因だったのだろうか。それでここまでの恨みを残したのだろうか。

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